最近、中国地方で米軍が港湾や空港などの施設を、さまざまな形で利用するケースが目立っている。日本周辺の有事における自治体や民間の米軍協力を定めた周辺事態法九条の政府見解は、港湾・空港の使用を「一般的協力義務」とする。それだけに、「米軍の動きは有事への地ならしではないか」との見方もある。
初の寄港「困った」
昨年十月十八日朝。米軍横須賀基地所属の第七艦隊駆逐艦「クッシング」(九、二五〇トン)が、国内屈指の水揚げを誇る漁港、境港に寄港した。目的は「親善・補給」。山陰の港に米艦船が来ること自体、まったくの初めて。日本の法律や条例を超越できて港湾施設を活用できる日米地位協定五条が適用された。
鳥取、島根両県でつくる一部事務組合の境港管理組合は九月末、境海上保安部を通じて事前通告を受け、対応に困った。「そもそも、地位協定がどんな手続きで行われるのかすら知らなかった。小樽、舞鶴、静岡など米艦船の入港の先例のある自治体から、あちこち情報をかき集めた」と青木茂事務局長は振り返る。
米軍側は、組合が定める港湾施設条例に準じる「施設使用届」を事前に提出し、組合は寄港を受け入れた。だが、その三カ月前の七月には「米軍の空母停泊地として境港が検討されている」と報じられたばかりで、寄港当日、岸壁では社民党の国会議員や労組員、市民団体のメンバーが、抗議のシュプレヒコールを上げた。
青木事務局長は「いろいろな議論はあったが、親善目的という説明を信じたい」と強調したうえで、こう語る。「一連の動きを通じ、米艦船が寄港する場合にはどう対応するのか、一定のルールづくりやノウハウの蓄積はできた」
抗議行動の一方で、一般公開されたクッシングには多くの見学者が訪れ、二日間の艦内公開も一日増やした。米軍にとっては寄港の「実績」だけでなく、市民へのアピールという面でも功を奏した形となった。
広島港も取りざた
山口県営岩国港では一九九七年の新ガイドライン合意の一週間後から、輸送船の岸壁使用が始まった。以前からたびたび米軍機が使用する広島空港も昨年三、四月に初めて輸送機が定期利用。九三年の開港以来、米軍機の使用はなかった益田市の石見空港にも昨年六月、米軍機が燃料切れや故障を理由に突然、着陸した。
今年二月には、演習中に海上自衛艦からも給油可能な佐世保基地所属の掃海艦が、あえて徳山下松港に立ち寄って給油した。
さらに九四年の朝鮮半島危機を受けた米軍の「対日支援要求」には倉敷市の水島港の使用も含まれていた。今、広島港への米艦船寄港も取りざたされる。
有事に備え調査?
「軍事的にはあらゆる事態に備え、利用可能な施設をチェックするのが常識で、有事に備えた事前調査とみていい」。軍事評論家の前田哲男・東京国際大教授はそう分析する。
朝鮮半島や台湾海峡など、米国の戦略的関心を考えると、地理的に近い中国地方の自治体も協力を求められる可能性は強まってくる。例えば日本海での複数の米軍空母・機動艦隊の展開を想定すると、佐世保など米軍基地だけでは補給能力が不足するからだ。
前田教授はこう提言する。「周辺事態法により従来、基地とは無縁の自治体も安保と直接向き合う状況が起こりうるようになった。すべての自治体が、自分の問題として考えるべきだ」
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島根県境に近い広島県山県郡芸北町でごう音をとどろかせ、急降下や低空旋廻を繰り返す米軍機のホーネット。訓練空域「エリア567」下での訓練は現在も収まる気配はない (99年6月28日)
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山陰の民間港へ初めての米艦船寄港として、横須賀基地の駆逐艦「クッシング」が境港の4万トンバースに4日間、接岸。抗議行動の一方、多くの市民が見学に訪れた (99年10月18日) |
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益田市の石見空港に着陸した攻撃機ホーネット。「燃料切れなどによる緊急着陸」と説明したが、島根県や市は抗議。米軍機の着陸は、まったくの初めてだった。 (99年6月10日)
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広島県沼隈郡沼隈町の造船所に米軍「即応予備軍」のタンカー3隻が係留され、町議会でも議論に。昨年には1997、98年の軍事演習にも参加していることが明らかになった (99年8月24日) |
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岩国基地の滑走路工事に伴い、横田―岩国間を週2便運航する米軍輸送機C―9が2ヵ月間、広島空港を利用した (99年3月4日) |
日米地位協定で米軍輸送船が入港、戦闘機の弾倉など、軍事物資を降ろした。97年から県営港使用は11回目。「条例による入港を」と山口県は要請し続けている (99年11月22日) |
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周防灘での自衛隊との掃海特別訓練に参加した米軍掃海艦「ガーディアン」が給油のため、5年ぶりに徳山下松港に入港。山口県に正式な連絡が入ったのは前日だった (2月22日) |
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岩国基地滑走路を空母に見立て、ごう音を響かせ夜間着艦訓練(NLP)を繰り返すホーネットの光跡。昨年から通算3度目 (2月15日) |
「X国が隣国への攻撃を開始し、米軍が武力介入を決定した。周辺事態法九条一項に基づき、県管理のA港の岸壁使用をお願いしたい」。運輸省の幹部から、中国地方のある県の知事に連絡が入った。日本近海に展開する艦船が接岸する計画という。ニュースは刻々と緊迫した国際状況を伝えていた。
政府の解釈では、九条一項による協力要請は「正当な理由がなければ拒否できない」との意見で一致。県議会の有力者らに連絡する間、運輸大臣からも知事に直接、電話が入った。協力要請の形を取りながら、事実上、「OK」を迫る口調だ。
だが艦船が接岸できるふ頭は既にコンテナ船の接岸の予定が入っていた。大臣は「調整できないか。国が直接話してもいい」県議会で「周辺事態への協力はケース・バイ・ケースで判断する」と繰り返してきた知事も「国民の安全にかかわること。使用を認めるしかない」と決断した。
協力に反対する県議らが知事室に抗議に訪れたが、判断は変わらない。港湾担当者は、接岸予約のキャンセルを交渉するため、窓口の船舶代理店へ事情説明に走った。
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