中国新聞

タイトル 第3部 ルポ・自衛隊は今 
 
 8.即応予備制度

民間人 非常勤で出動
 認知不足 確保が課題

 「突撃し、伏せるまでは四秒以内だ。それ以上かかると、敵に撃 たれるぞ」。厳しい声が飛んだ。

 広島県安芸郡海田町の陸上自衛隊海田市駐屯地の戦闘訓練場。六 月八日、三人の即応予備自衛官が、汗だくになっていた。

即応予備自衛官の訓練。民間に仕事を持つ隊員たちの士気は 高い(6月8日、広島県海田町の陸上自衛隊海田市駐屯地)

 即応予備自衛官の活用のため昨年三月、第一三旅団に創設された 第四七普通科連隊の訓練だ。小銃を手にほふく体勢から突撃する動 きを何度も繰り返す。指導役の隊員も鋭いまなざしで指示を出す。

 即応予備自衛官は民間企業などに勤めながら年間三十日の訓練を し、有事や大災害には常備自衛官と同じように出動する。一九九五 年の新防衛計画大綱に基づき九州の第四師団に続いて、一三旅団に 導入された。

 平均36歳 士気高く

 四七連隊をはじめ傘下の六部隊に今春、計百五十七人を加え、総 数は四百六十八人。「計画通り、来春に五百四十四人の定員は充足 できる」と人事担当の高橋行雄・旅団第一部長は説明した。仕事や 家庭などの都合で、一年でやめたのはわずか十五人。予想以上の 「歩留まり」だったという。

 四七連隊で二年目を迎えた藤井康司三等陸曹が、訓練の合間、話 を聞かせてくれた。三十七歳。本職は福山市内の自動車販売会社セ ールスマンだ。「忙しい仕事をやりくりして訓練に参加している。 二人の子供がいるが、休日のだんらんはほとんどなく、妻から口う るさく言われる」

 現役時代は全国の精鋭が集まる第一空てい団(千葉県)に所属 し、昇進の年齢制限で八八年、やむなく退職した。「思いを残した だけに即応予備の話を聞き、これだと思って志願した。何としても 続けたい」と意欲を示す。

 連隊の即応予備自衛官の平均年齢は三六・一歳。仕事も家庭も多 忙な年代だ。石本哲夫連隊長は「戦力としてはまだこれからだが、 士気の高さは文句のつけようがない」とほめる。

 地元組は半分以下

 だが、即応予備自衛官の募集・連絡を担当する自衛隊広島地方連 絡部(地連)で、永野賢一援護課長は「制度自体がまだ十分知られ ているとは言えない状態」とみている。「本人が希望しても雇用す る企業に協力してもらえないケースも少なくない」

 実は、一三旅団は管轄する中国五県以外からも即応予備自衛官を 採用している。地元組は半分にも満たない約二百人。他はまだ制度 が導入されていない第三師団(近畿)、第一〇師団(東海・北陸 )、第二混成団(四国)の管内からの「借りもの」なのだ。

 四七連隊は現在、中国地方以外の駐屯地にも指導役の隊員を派遣 し、出張形式で訓練を続けている。石本連隊長は「遠くは六百二十 キロ離れた金沢駐屯地。移動の労力、経費などが負担になる」と明 かす。

 地域との「接点役」

 三年後には一〇師団、五年後には三師団が即応予備自衛官の採用 を始める。今は一三旅団に所属する隊員が地元の部隊に移る場合も ある。「中国地方だけで、どう確保するかは大きな懸案」。小野寺 平正旅団長も認める。

 即応予備自衛官には欧米の軍隊の「予備役」のように、自衛隊と 地域社会のつながりを強める狙いもある、とされる。この制度は自 衛隊が、地域に信頼されているかどうかを試す「リトマス紙」でも ある。

このシリーズは今回で終わります。岩崎誠が担当しました。


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