中国新聞

タイトル 第2部 自治体の課題 
 
 5.夜間訓練

地元の声 米軍に届くか
 広島県は大使へ直訴

 二月十五日夜。雪が舞う米軍岩国基地の滑走路近くで、井原勝介 岩国市長は十二機のFA18ホーネットが夜間着艦訓練(NLP)を 繰り返すのを視察した。「どうして岩国でやらなければならないの か…。米軍と直接、交渉ができないだろうか」。その声はごう音に 何度もかき消された。

 中止要請 耳貸さず

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夜間着艦訓練を窓から監視し、市民からの苦情電話も受ける 岩国市役所基地対策課(2月15日)

 労働省官僚から昨年四月の市長選に立候補し、初当選した井原市 長。就任後一年足らずの間に昨年七月と今回、市民生活に深刻な影 響を及ぼすNLPに二度も直面した。外務省などを通し米軍には訓 練中止を再三、求めたが、まったく聞き入れられなかった。

 基地の存在を認め、安保は「国と国の問題」とするのが井原市長 の基本姿勢だ。それでも、騒音に悩む地元の声が届かないことに は、もどかしさを隠さない。

 NLPは艦載機パイロットが着艦する技術を磨くため、夜間の滑 走路を空母に見立て「タッチ・アンド・ゴー」を繰り返す。硫黄島 に日本政府が造った訓練施設があるが、米軍は昨年から緊急性や効 率性を理由に、岩国で訓練を再開している。

 東アジアへの戦略

 業を煮やした井原市長が直接、交渉したいとする「米軍」は、在 日米軍司令部などだ。これまで、市は岩国基地とは話をしてきた が、河村幸生基地対策担当部長は「岩国基地には当事者能力がな い」。NLPなどの戦略にかかわる問題は、基地司令ではどうにも ならないという。

 日本周辺有事への米軍協力を定める日米防衛協力のための新指針 (ガイドライン)は、NLPなどの訓練の支援には触れていない が、NLPは米軍の東アジア戦略と密接なかかわりがある。昨年七 月の訓練は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)のミサイル発射に備 えたものとみられた。今回も、訓練したホーネットを搭載する空母 が、大統領選を控えた台湾の近海に出動している。

 基地撤去を求める岩国市職平和研究所長の田村順玄市義は懸念す る。「新ガイドラインが、本土のNLPをやりやすくした。現在、 進む滑走路の沖合移設工事が完成すれば岩国基地については米軍の 使い勝手がさらによくなるだろう」

 NLPとは形態は違うが、米軍機の訓練をめぐり、広島県が政府 を通り越して米国高官に直接、訴える場面が二月下旬にあった。

 広島を訪れた元下院議長のトーマス・フォーリー駐日大使に藤田 雄山知事が中国山地での低空飛行中止を求めたのだ。「週末や休日 の訓練を制限した日米合意が守られていない」との訴えには、大使 も「個人的には危ぐする」とはっきり答えた。訓練の実態はその後 も変わらないものの、渕上俊則県総務企画部長は「米軍へのインパ クトがあったはず」とみる。

 伝えたい思い一致

 三月七日の岩国市議会一般質問。田村市議はNLPに合わせ実施 した、住民アンケート二百人分の回答を手にただした。「騒音に悩 む市民の声を直接、米軍に聞かせられないか」。井原市長は「ご提 案を受け、検討したい。私自身、地域の思いを伝えたい気持ちはあ る」。基地をめぐる姿勢ではいつも平行線をたどる二人の意見は、 この点では一致した。


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