米軍入港のたび難題 ―地位協定・条例 板挟み
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2年余で既に11回
米軍岩国基地から北に二・五キロの山口県営岩国港ふ頭。年明け
早々、台湾のコンテナ船の荷降ろし作業が始まっていた。入出港事
務を扱う県岩国港湾管理事務所次長、岡崎豊治さん(50)は今年も気
が重かった。この二年余りで既に十一回。米軍の軍事物資の積み降
ろしが常態化してきたからだ。「今年も確実に、ここを使ってくる
だろうなあ」
米軍の使用は一九七○年代までのベトナム戦争当時こそ活発だっ
たが、一九八五年を最後に途絶えていた。その状況が変わるのは十
二年後の九七年十月。基地から韓国へ軍事物資を輸送する米軍のチ
ャーター船の寄港である。
その一週間前、「周辺事態」での民間港の使用を定めた日米防衛
協力のための新指針(ガイドライン)が、閣議報告されたばかりだ
った。
岡崎さんの赴任はその翌年の九八年四月。二週間後、さっそく再
開二回目の米軍輸送船の入港手続きに携わる。労政畑が長く港湾行
政は初めて。「まさか米軍のために、これほど手が取られるとは思
わなかった」と振り返る。
演習用物資をタイへ輸送するのが輸送船の目的だった。米軍側は
この段階では一般船舶と同じように、危険物の荷役を禁じる県港湾
管理条例を守り、積み荷のリストを提出していた。

米軍物資の積み荷降ろしが常態化しつつある県岩国港 (岩国市新港町)
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申し入れも通じず
岡崎さんは二カ月後、米軍から予想もしなかった打診を受ける。
「輸送船の帰りは日米地位協定を使いたい」。地位協定は条例を超
越し、入港料も払わず積み荷リストの提出もない。条例に従うよう
申し入れたが、基地側は受け入れなかった。
それ以降も苦労は続いた。ふ頭に近い野積み場の使用、戦闘機の
弾倉などのむき出し運搬、日本の民間船のチャーター使用、荷揚げ
物資の道路への放置、入港時間の遅れ…。対応に追われ、仕事も多
忙を極める。
「入港するたびに新しい事態が起こる。対応が外交問題にも発展
しかねないだけに神経を使う。物資をむき出しにしないでくれ、と
申し入れると、こう言うんですよ。それは文化の違いだって」。一
連の経緯を記録したぶ厚いファイルを手に岡崎さんは苦笑する。
物資リスト「命綱」
ただ、港湾に隣接した物資の野積み場の使用は地位協定の対象
外。荷降ろし後に野積みする物資のリストについては、米軍側も
「県が公表しない」ことを条件に提出している。この非公開を、米
軍輸送船の入港に反対する市民団体などが強く批判、板挟みのジレ
ンマを感じることもある。
「気持ちは分かるが、米軍が積み荷の中身を『安全』と説明して
も、うのみにはできない以上、非公開という条件を守ってリストを
手に入れるざるを得ない。県として中味を把握するためのぎりぎり
の命綱です。米軍と関係を損ね、リストが出なくなったらどうしま
すか」
地位協定を盾に米軍が入港通告すれば、「県条例に従って積み荷
リストを提出してほしい」との申し入れを繰り返す山口県。岡崎さ
んは言い分が通じない無力感も感じる。だが行政として「住民の不
安を解消し、県民の財産である港を守る」という立場から今後も、
申し入れは何度でも繰り返すことになりそうだ。
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《米軍の岩国港利用》米軍輸送船は岩国港に一九九七年一回、九八
年に四回、九九年に六回入港した。海外の軍事演習の物資運搬が主
目的。遠浅に面する岩国基地に岸壁がなく、以前は米軍佐世保基地
経由で運んでいた。米軍は「ガイドラインとは関係なくコストの問
題」と説明。地位協定で免除された係船料など(昨年九十九万円)
は、防衛施設庁が県に損失補てんしている。
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