広島県内の13全市が抗議文
'98/5/13
「世界を再び核開発競争に向かわせかねない」―。インドが二十 四年ぶりに地下核実験を強行した翌日の十二日、怒りの声はヒロシ マだけでなく、広島県内全域から上がった。県や十三市をはじめ、 市民団体などが続々と駐日インド大使館に抗議文を送った。
世界が核軍縮を道を切り開こうとする中での実験強行に、小笠原 臣也・呉市長は「包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効を一層 困難にする」と指摘。「人類史上最初の被爆地である広島の心を踏 みにじる暴挙であり、憤りとともに厳重に抗議する」(福岡義登・ 三次市長)、「強い憤りと悲しみを感じる」(讃岐照夫・東広島市 長)など、厳しい文面となった。
県内の自治体は、これまで米国やロシアの臨界前核実験に対し、 その都度、抗議文を送ってきたが、今回のインドの実験が、特に潜 在的核保有国とされるパキスタンなどへの波及を懸念。山下三郎・ 廿日市市長らは「これがきっかけとなり、アジアの緊張が高まり、 新たな核兵器開発競争が再燃する危険性がある」とし、核実験の即 時中止を求めた。
一方、抗議の輪は市民団体や民間団体などにも広がり、核戦争防 止国際医師会議(IPPNW)日本支部長の真田幸三県医師会会長 は「核兵器に依存する国家の安全保障は真の安全保障でない」と批 判。公明党県本部やピースリンク広島・呉・岩国なども抗議文を送 った。
▽不安感募らせる被爆者
インドが核実験を強行したのを受け、広島市中区千田町一丁目の 広島赤十字・原爆病院や、中区舟入幸町の広島原爆養護ホーム舟入 むつみ園では、被爆者らが一様に落胆し、核戦争に対する不安感を 口にした。
原爆病院に入院中の金行清市さん(85)は「核兵器がいかに不幸を 招くか分かっていない。ヒロシマの思いは、原爆展では伝わらなか ったのか」と肩を落とした。
爆心地から約三・二キロの己斐中町(現在の西区己斐中三丁目)の 自宅で被爆したむつみ園の二神三利さん(68)は「核兵器を持てば、 結局威嚇のための道具だけで済まなくなるのではないか」と核戦争 の危険性に不安を募らせた。
呉市の旧海軍病院で被爆者看護に当たった同園の樋口安子さん (69)も「以前は『核兵器は持たない』と言っていたのに…。また同 じ過ちを繰り返すのかと思うと断腸の思いです」と唇をかんだ。