高まる国際世論を無視して、インドが実施した二度目の地下核実
験は、平和への脅威と各国のそれへの対応とあわせ、さらに大きな
波紋を広げている。対インド非難や経済制裁といった問題にとどま
らず、隣国パキスタンの動きが急を告げているからだ。
昨日付の英国タイムズ紙は「パキスタンが核実験を用意」と報じ
た。インドへの対抗策として、数日内に実験に踏み切る見通しで、
シャリフ首相は一昨日、核実験計画担当の責任者と長時間会った。
既に実験実行の用意は整っており、実験地もアフガニスタンに接す
る西部のバルチスタン州を選んでいると伝えている。
この情報に前後して、ワシントン発の外電も「パキスタンが核実
験と中距離ミサイル発射実験の準備を進めている(米情報筋)」と
報じた。このため米国務省は、タルボット副長官を急きょパキスタ
ンに派遣。きょうにも説得協議する。既にオルブライト長官自らも
緊密な関係にある中国を通じて自制の働きかけをしている。
しかしシャリフ首相は、一昨日のクリントン米大統領との電話会
談で「主権と安全を守るために適切な措置をとるほか選択肢がな
い」と、国内世論の圧力をかわし切れない苦衷を示唆した模様であ
る。昨夕(日本時間)開会したジュネーブ軍縮会議では、初日だけ
でパキスタン、日本など十六カ国が発言を求めている。緊張感漂う
南アジア情勢の好転に重要な一石を投じてほしい。
政府援助、世界銀行の融資停止などいち早く対インド制裁を決め
た米国に呼応して、わが国も新規の無償資金協力の停止、インド支
援会合(六月)の開催見合わせなどのほか、人的交流の制限など幅
広い分野の制裁措置を取る方針だ。それは対インド問題に限らず、
パキスタンなど核保有指向国の今後の動向にもかかわりかねないか
らである。
きょう開幕する主要国首脳会議(バーミンガム・サミット)で
も、初日の会合で対インド問題が緊急討議される。しかし参加八カ
国はインド非難では一致しているものの、米国サイドの経済制裁に
は英国、フランス、ロシア三カ国は反対の意向である。インドが英
連邦加盟国とはいえ、サミット議長国の対応として妥当とはいえな
い。ロシア、フランスも軍事協力などお国の事情があるにせよ大局
に立てないものか。
もとより核大国は、核保有追随国を非難する資格と理由づけに欠
ける。なぜなら国際世論の批判を浴びながらも核軍拡を推し進めた
結果、核拡散防止条約や包括的核実験禁止条約を押しつけ、臨界前
核実験を実施してきた大国のエゴが背景にあるからだ。橋本龍太郎
首相はこの認識のもと、今回サミットではまず、核大国の責任を問
い「いかなる核実験もしない」という要請と核廃絶に向けての努力
を強く求めるべきである。
インドの相次ぐ核実験に抗議する広島県内の対応は、各自治体を
含め近年になく迅速で切実感が伴っていた。核問題がより身近に迫
ってきた、との認識からだ。しかし今後、抗議行動にとどまらず次
なる展開に道をつけたい。当面、パキスタンに対し、自制の要請行
動を起こす必要がある。併せて「核兵器なき世界」を目指した新た
な市民運動の構築を提唱したい。

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