憤り覚えるインドの核実験

'98/5/13

 インドが国際世論を無視して核実験を強行した。世界が核軍縮・ 核実験禁止に向けて動いているだけに、今回の実施は国際社会への 挑戦と言えよう。

 インドのバジパイ首相は十一日午後、西部ラジャスタン州のポカ ラン砂漠にある核実験場で、計三つの地下核実験を実施したことを 明らかにした。インドの核実験は一九七四年五月以来、二十四年ぶ りだが、今回の実験で事実上、核保有国であることを自ら宣言した ことになる。

 国際社会では、これまでも核兵器の製造能力を有する「潜在的核 保有国」とみなされていた。しかし、核兵器を保持しているかどう かはっきりさせない「核疑惑国」というあいまいな立場をとってき た。それをあえて核実験で核保有国であることを公表し、国際的な 批判を承知で六番目の「核クラブ」入りをした背景には何があるの か。

 核保有大国が核拡散防止条約(NPT)や、包括的核実験禁止条 約(CTBT)を押しつけながら、自らは臨界前核実験を実施し て、新たな核開発技術を得ようとするなど核大国の横暴に対するい ら立ちもむろんあろう。

 だが今、この時期に強行したのは、中国の軍事力増強に対する危 機感と同時に、パキスタンが核弾頭搭載可能な新型中距離弾道ミサ イル「ガウリ」(射程千五百キロ)の発射実験に成功した焦りがある と思える。

 インドと隣国のパキスタンは、カシミールの領土の帰属をめぐっ て対立、戦火が絶えない。それだけに、インドの実験強行は「核疑 惑国」パキスタンを刺激するのは必至で、アジア全域の不安定化を 招く事態になりかねない。

 そればかりか、兵器用核分裂性物質の製造を禁じる「カットオフ 条約」交渉など、今後の核軍縮交渉にも影響を及ぼす懸念がある。 辛うじて守られているNPTの体制も崩れてしまう。

 いかなる理由があろうと、核兵器をなくそうという国際世論を無 視した行為は許せない。しかも、核実験は広島、長崎両市が首都ニ ューデリーで開いた、アジア初の原爆展の開催中に行われた。

 原爆展には平岡敬広島市長も出向いた。世界の核実験の状況など を伝えるパネルが撤去される事態はあったものの、「反核世論の広 がりが感じられていた」(平岡市長)だけに残念だ。核廃絶へのヒ ロシマの願いを踏みにじる暴挙と言わざるを得まい。誠に遺憾であ る。

 今回の核実験に対し、米政府は経済制裁の発動を検討していると いう。今月十五日から英国で開かれる主要国首脳会議(バーミンガ ム・サミット)でも、主要議題に取り上げられ、経済制裁は避けら れそうにない。しかし、インドをここまで追い込んだ核保有大国の 核軍縮姿勢にも問題がある。

 日本政府も制裁措置を検討するようだ。中国が九五年に核実験を 強行した際にも無償資金協力を一時凍結した。日本はインドにとっ て最大の援助供与国である。唯一の被爆国である日本が、厳しい措 置をとるのは当然だ。

 小渕恵三外相はシン駐日大使を外務省に呼び、厳重抗議した。サ ミットでもイニシアチブを発揮し、核保有大国にも強い姿勢をみせ てほしい。世界の流れに逆行する妄動は、もう終わりにしたい。


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