核廃絶、まず不使用条約を/広島市長
'98/6/1
![]()
市民の力で締結訴え
インド、パキスタンの核実験応酬を受け、広島市の平岡敬市長は 三十一日、中国新聞社の河野一郎報道部長のインタビューに応じ た。その中で「核戦争が起きかねない深刻な事態」との認識を示し た。ヒロシマの願いである核兵器廃絶への具体的道筋として「核不 使用条約の締結に向けて市民の英知を結集すべきだ」と強調した。
抗議運動 再構築の時期
平岡市長は、南アジアの現状に対して「これまでの核保有五カ国 に比べ、はるかに核兵器使用の危険性が高い」と指摘。核拡散防止 条約(NPT)や包括的核実験禁止条約(CTBT)の核兵器管理 体制は「実質的に崩壊した。新たな枠組みを構築せざるをえない」 との考えを示した。
その上で、対人地雷全面禁止条約を例に挙げ、「核廃絶を一気に 実現するのは難しい。しかし、非政府組織(NGO)や市民が核保 有国に訴え掛け、核を所有しない国に対して核兵器を使わないとい う核不使用条約を結ばせることはできる」と現実的方法の重要性を 強調した。
平和の構築については「政府と市民の二つのレベルが両輪となっ て初めて実現できる」とし、全世界的には第三次戦略兵器削減交渉 (START2)の実現、地域的には非核地帯を拡大していく努力 を求めた。
また、政府に対し「国連を中心に緊張を和らげていく必要があ る。唯一の被爆国である日本政府がリーダーシップを発揮し、イン ド、パキスタン両国を同じテーブルにつけて、核拡散防止の緊急国 際会議を開くべきだ」と求めた。「核の傘からの脱却を国民レベル で議論する課題はあるが、両国に軍事援助をしている米国や中国と 異なり、日本の核兵器廃絶の訴えは説得力がある」と述べた。
これまでのヒロシマの役割について「国連の核兵器廃絶決議や国 際司法裁判所(ICJ)が核兵器使用を国際法違反とした勧告的意 見など、被爆地の訴えは無駄ではなかった」と一定の評価をする。
一方で、「座り込みや抗議文などの運動を続けてきたが、手段や 方法を組み立て直す時期ではないか」と言明。広島平和研究所を軸 に、現実的、具体的な目標を掲げる考えを示し、その実践組織とし て広島平和文化センターを充てる意向を見せた。
パキスタンのシャリフ首相が「広島、長崎の二の舞になりたくな い」と核実験を正当化した発言に対して「力には力で対抗しようと いう核抑止論は間違いで、不愉快だ」と怒りを表明。「核兵器が国 の安全を保障することはできないことを伝えるため、国際政治に直 接、働きかけていかなければならない」と強調した。オーストラリ アに各国の有識者が集まり核兵器廃絶への道筋を示した「キャンベ ラ委員会」の日本版設置に向けても意欲を見せた。
【写真説明】「核管理の新しい国際ルールが急がれる」と話す平岡広島市長