再度のパキスタン核実験に広島市長ら抗議

'98/5/31

  被爆の惨劇理解深めて/平岡敬広島市長

 世界中から強い非難を受けていたにもかかわらず、再度実験を強 行したことは、核兵器のない世界の実現を求める人びとの願いを踏 みにじる暴挙で、強い憤りを覚える。今回の実験は、緊張が高まっ ているインド、パキスタン両国の関係を悪化させ、核兵器が使用さ れる危険性を限りなく高めた。五十三年前の広島・長崎の被爆の体 験から、核兵器が使われれば、人類絶望の道をたどりかねないこと を深く理解し、核武装に安全保障をゆだねる政策を放棄してもらい たい。

  県民の思い踏みにじる/藤田雄山広島県知事

 全世界から激しい非難と抗議を受けている中での再度の核実験実 施は、核兵器の廃絶と恒久平和を願う広島県民の思いを踏みにじる 暴挙。極めて遺憾であり、重ねて強く抗議する。

  核兵器使用危険性高める

 ヒロシマの怒りが頂点に達する中、パキスタンが三十日、再び核 実験の暴挙に出た。被爆者団体は即刻、怒りの抗議文を送り、一回 目の実験に抗議して原爆ドーム前に座り込んでいた市民グループは 顔をこわばらせた。原爆資料館には開館以来初めて抗議の掲示板が 設置されるなど、ヒロシマは声を強めて核兵器廃絶を訴えた。

 

 広島県被団協の伊藤サカエ理事長は「ヒロシマを繰り返さないた めには、核兵器を廃棄するしかないという当たり前のことが、なぜ 分からないのですか。今も後遺症に苦しむ被爆者の実情を、イン ド、パキスタンの国民に見てもらいたい」と唇を震わせる。

 もう一つの県被団協の金子一士理事長も「憤りを覚えるとしか言 いようがない。核の恐ろしさが理解されておらず、現実に使用され る恐れも出てきた」と指摘。県原水協と連絡を取りながら、パキス タン政府に抗議文を送った。

 日本政府の対応に、被爆者の不満は集まる。伊藤理事長は「核抑 止論を乗り越えるには政府がリーダーシップを取るしかない」。金 子理事長も「橋本政権が米国の核の傘から出る強い態度を示すこと が大事」と口をそろえた。

 自転車で全国を巡回しながら平和を訴える広島の市民団体「ピー スサイクル広島ネット」(伊達工代表)のメンバー十人は、中区の 原爆ドーム前で一度目の核実験に抗議中、午後六時前に新たな実験 を知った。「反戦・平和・ノーモアヒロシマ」と書いたのぼりを掲 げ、午後七時すぎまで座り込みを続けた。

 印パの平和運動家をヒロシマに招待する市民募金に乗り出した 「インド・パキスタンと平和交流をすすめる広島市民の会」の宮崎 安男世話人は「火種が大きく燃え上がり始めた」と危機感を強調。 「広島市長が主催して緊急市民集会を開いてほしい」と核をなくす ための具体的行動を提起した。

 同日朝、平和記念公園内の原爆資料館入り口には、「インド・パ キスタンの核実験に強く抗議する」という掲示板が設置されたばか り。一九五五(昭和三十)年の開館以来、資料館としては初の抗議 行動だった。畑口実館長は「次から次へと保有国が拡大する現実 に、憤りを越えて恐怖感を覚える。世界に向けた資料館のアピール を強めなければ」と新たな活動を誓っていた。

ヒロシマ 悲痛な訴え

 「一つ誤ると、地球が危ない」―。三十日夕刻に飛び込んだパキ スタンの二度目の核実験のニュース。広島市内では、制止を無視し て繰り返される暴挙への怒りとともに、一触即発の「印パ」関係へ の不安、飛び火する核開発競争への懸念の声が聞かれた。

 この日は、つかこうへいさん作の舞台「広島に原爆を落とす日」 の広島公演初日。南区比治山本町の区民文化センターで、午後六時 の開場を待っていた賀茂郡黒瀬町、無職溝下尚子さん(30)は、二度 目の実験の知らせに驚いた様子。「周辺の国々に、核実験をやって も構わないという風潮や、やらなければという強迫感が広がると怖 い」と心配する。

 これに先立つ午後四時半、二度目の実験が伝わる直前、記者会見 に応じた作者のつかさんは「パキスタンからイラク、イスラエルへ とどんどん広がってしまわないか。一つ誤ると、地球が危ない」と 述べ、ドミノ式に核開発が拡大する懸念を表明した。

 中区中島町の平和記念公園。夕暮れのベンチで本を読んでいた佐 伯区五日市一丁目、会社員瀬川昌男さん(60)は「実験を繰り返すの は、広島の惨状を知らないから。人間を大量に殺す核兵器を開発し て、自国が強くなったと喜ぶなんて理解できない」と怒りをあらわ にする。

 「原爆の子の像」の前にたたずんでいた大阪府堺市御池台、小学 校教諭土佐いく子さん(50)は「インドとパキスタンはこれまで何度 も戦争を繰り返してきた。今までこんなに仲の悪い隣国同士が核を 持ったことはないはず」と危機感を募らせる。

 中区基町のデパート前では、買い物帰りの西区井口台四丁目、会 社員佐々木弘子さん(36)が「緊張が続けば、核戦争が起きるかも。 地球はどうなるのか。自分で自分の首を締めている」と今後の動向 に不安そうな表情。

 友達と待ち合わせをしていた、東区牛田旭一丁目、会社員菅静二 さん(47)は「再び広島や長崎の過去の惨状を繰り返してしまう可能 性も出てきた。被爆の経験をもとに日本が行動し、食い止めるべ き」と、政府に対し早急な対応を求めていた。

【写真説明】パキスタンの核実験に抗議して原爆ドーム前に座り込む市民グループ「ピースサイクル広島ネット」(伊達工代表)のメンバー。午後5時、1回目の抗議で座り込んで40分後、2回目実施のニュースが飛び込んだ(30日午後6時20分)


Menu