パキスタンの核実験に県内各地で抗議行動

'98/5/30

 パキスタンの地下核実験から一夜開けた二十九日、広島県内の被 爆者団体や平和団体、市民らが一斉に街頭に飛び出し、抗議の座り 込みなどを繰り広げた。インドに対抗し、国際世論を無視して強行 されただけに、反核への願いと怒りの声は一層強まった。

 広島市中区の平和記念公園では、県被団協(伊藤サカエ理事長 )、県原水禁、連合広島など十三団体の約百二十人が午後六時から 三十分間、原爆慰霊碑前で座り込んだ。

 県被団協の坪井直事務局長は「核実験を食い止められなかった悔 しさが大きい。非政府組織(NGO)と連携し、国際世論を高めた い」と参加者に訴えた。

 もう一つの県被団協(金子一士理事長)や県原水協など八団体の 約二百人も正午すぎから、慰霊碑前に座り込み。「パキスタンの核 実験に断固反対」の横断幕を手に、包括的核実験禁止条約(CTB T)に代わる、あらたな国際条約の必要性を訴えた。

 市民グループ「ヒロシマ・平和のリボンの会」(渡辺美代子代 表)は、修学旅行の高校生たちと一緒に慰霊碑前で、「核実験禁 止」などと書いたリボン約三十枚を掲げ、パキスタン政府を非難。 ピースリンク広島・呉・岩国(三木のりこ世話人)は、原爆ドーム 前に座り込み、怒りを示した。

 抗議行動は、県内全域にも拡大。高田郡内では吉田町原爆被害者 の会(青崎順三会長)の三十人、甲田町職員組合(深本正博委員 長)の二十二人、高宮町職員組合員ら三十人が、それぞれの町役場 前で座り込んだ。「どうして被爆地の声を聞き入れてくれないの か」と、青崎会長たちは厳しい表情を崩さなかった。

 双三郡三良坂町平和公園では、町平和を願う会(会長・湯免龍夫 町長)が抗議集会。近くの三良坂中の生徒ら町民八十四人は「世界 の核がなくなるまで運動を続けよう」と座り込み、抗議文をパキス タン大使館へ郵送した。

 県東部でも、「福山地区平和を求める青年女性ネットワーク」の 約三十人が、福山市中央公園で約一時間座り込むなど、労組員を中 心に福山、尾道、因島の各市などで座り込みをした。

 ▽中国地方の各地でも憤りの声続々

 パキスタンの核実験強行から一夜明けた二十九日、被爆地・広島 以外の中国地方で平和運動や原水禁運動を進めてきた人々も、「核 拡散防止の枠組みに逆行する暴挙」と強く非難する一方で、「唯一 の被爆国・日本の役割と責任は重い」と断言した。

 原水禁鳥取県民会議の安達俊幸代表委員は「シャリフ首相の『ヒ ロシマ・ナガサキのようになりたくなかった』という論理は理解し がたい」と非難する。

 「相手がやるからやる、という愚かな行為」(中谷亘・山口県原 爆被害者団体協議会会長)「核に核で対抗しようという考え方が怖 い」(斉藤肇・笠岡市職労書記長)「どんな理由があろうとも、核 実験は許されない」(上田博則・非核の呉港を求める会代表世話 人)など、憤る声が次々と上がった。

 今回の核実験が波及することへの危機感も強い。岡山市原爆被爆 者会の稲岡英之輔事務局長は「イランなど他のイスラム諸国に核保 有が波及しないか。包括的核実験禁止条約(CTBT)が紙切れに ならないよう祈るだけだ」と言う。

 しかし、核保有国や国際社会の姿勢も問われる。「パキスタン以 上に問題なのは米国で、自らの核保有は保障しながら他国を批判す る資格はない」(足立昭二・島根県青年女性平和友好祭実行委員 長)「国際社会が中国、フランスの駆け込み実験を許してきたこと が今日につながった」(西村悟義・島根県原爆被爆者協議会浜田支 部事務局長)との意見も相次ぐ。

 山口被爆二世の会会員の寺中千尋さん(33)は「核実験を終えて歓 喜するパキスタン国民の姿をテレビなどで見ると、核兵器の本当の 怖さを伝えきれなかった被爆国・日本の責任も痛感する」と話す。

 「日本は今こそ、米国の核の傘を離れ、核大国から核廃絶に踏み 切るよう説得する役割を担うチャンス」(松山和男・平和な岩国を めざす会代表世話人)「ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)は(民衆 の)傍観と無関心の結果でもあり、(日本は)傍観をやめ、一国で も勇気ある行動で平和をつくり出してほしい」(大塚信・ホロコー スト記念館長=福山市)。各地で、わが国の行動を促す提言も相次 いだ。

【写真説明】パキスタンの地下核実験に抗議する双三郡三良坂町平和を願う会のメンバー


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