パキスタン核実験に広島市長ら抗議

'98/5/29

 国際社会の声を無視した暴挙/平岡敬広島市長

 カナダ・米国出張中の平岡敬広島市長は二十八日、米・デトロイ トから緊急電話で抗議コメントを広島市に伝えた。

 平岡市長は「核兵器廃絶を願う国際社会の声を無視した暴挙。ヒ ロシマの名において厳重に抗議する」としたうえで「南西アジアの 緊張を高めて核兵器開発競争に拍車をかけ、核拡散防止条約(NP T)体制の崩壊につながることを危ぐする。背景には核大国が臨界 前核実験を繰り返すなど核軍縮に取り組んでいないことがある」と 指摘。核抑止力に依存しない国家安全保障体制の構築に向けての努 力を求めた。

 平和な世界の実現に一層の努力を/藤田雄山広島県知事

 恒久平和を願う国際社会に対し、パキスタンもまたインドと同じ 挑戦をした。強く抗議するとともに、核実験の即時停止と核兵器の ない平和な世界の実現に向けて一層の努力をするよう、あらためて 強く求める。

 ヒロシマの願い踏みにじられた

 ヒロシマの願いがまたも踏みにじられた―パキスタンが核実験を 強行した二十八日、被爆者らは強い憤りと深い失望感に包まれた。 国際社会が自制を求める中、インドに続く暴挙にヒロシマの役割を あたらめて再構築していく思いに迫られた。

 広島県被団協の総会で伊藤サカエ理事長が、インドに続く核実験 国の出現を懸念し、「いかなる核実験にも反対する」と決議をした 十時間後に飛び込んだニュース。坪井直事務局長は「一番恐れてい たことが現実となった。被爆者の苦しみが、どうして分からないの か」と憤慨した。

 もうひとつの県被団協の金子一士理事長も「国際社会を敵に回し ながら、なぜ核に頼らざるを得ないのか。中東などの他国への波及 が心配」と怒りをあらわにした。

 昨年十一月、パキスタンを訪れた被爆者の佐々木愛子さん(63)= 中区大手町四丁目=は「核兵器と人類は共存しないと繰り返し訴え てきたが、失望した。米国をはじめ核大国が自ら核を放棄しない限 り、この事態は打開できない」と指摘する。

 来月、インド、パキスタン両国に訪問団を派遣する予定の広島県 原水禁の宮崎安男代表委員は「被爆体験を基に、核抑止論を打ち破 るヒロシマの理論を再構築する必要がある」と新たな被爆地の役割 を強調した。

 パキスタンの実験強行により核軍縮に向けた国際的な流れが逆戻 りするとの危機感は強い。広島市立大国際学部の平井友義教授(国 際政治史)は「印パの核実験は、国家の威信の問題が大きい。パキ スタンへの武器供与しか手を打てなかった米国はそれを見逃した」 と分析した。


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