核実験禁止の国際会議が急務

'98/5/31

 パキスタンが二十八日に続いて核実験を強行した。国際世論の批 判を全く無視した、身勝手な振る舞いに強い憤りを覚える。パキス タンはこれ以上の実験は即時やめるべきだ。隣国インドも過剰な反 応をせず自制してほしい。両国の核軍拡競争は、いつか核の実戦使 用につながりかねないからだ。

 もう一刻の猶予もない。核大国は、自らの核軍縮を進めるととも に、早急にインドとパキスタンを巻き込んだ国際会議を開き、核拡 散防止と核実験の全面禁止の合意にこぎつけるべきだ。

 それにしても、なぜパキスタンは度重なる実験をしたのか。考え られるのは(1)一度目の実験で得られなかったデータの収集と技術面 での補強(2)インドが二度実験を行ったことへの対抗―などである。 その背景には、経済力、通常戦力などでインドに遅れを取るパキス タンの焦りが見える。せめて核戦力では対等以上に、と躍起になっ ているといえる。

 とするならば、今後もパキスタンが核実験を強行する恐れが出て くる。同国の核開発責任者、カーン博士は核分裂装置(原爆)の爆 発に加え、熱核反応装置(水爆)実験も可能と述べているからだ。 その上、非常事態宣言の中、国民の異常ともいえる後押しがある。 懸念は募る。

 一方、インドの反応はいまのところ冷静に思える。しかし、水爆 に加えて、パキスタンが中距離弾道ミサイル「ガウリ」への核弾頭 装着を公然と口にし始めたことから、対抗上、さらなる実験に踏み 切ることも十分考えられる。

 インドがそうであったように、日を置かない追加実験は、新たな 制裁の規模も最小限にとどまる、との読みもあるのかもしれない。 双方に足元をみられているのだろうか。

 核実験はもとより、より怖いのは両国の中距離弾道ミサイルへの 核弾道装着のエスカレートである。すぐ隣に対立国がある。紛争も 収まっていない。使いやすい状況といえる。まず装着を思いとどま ってもらいたい。また両国は「核を先制使用しない」といってはい る。単なる口約束ではないことを、世界に確約すべきだ。

 同時に、両国に対して有効的な国際的圧力をかける必要がある。 各種の制裁も合わせて、「核保有は割に合わない」ことをどう認識 させるかである。

 いうまでもなく、核軍縮に消極的な核大国の責任は極めて大き い。核拡散防止条約(NPT)や包括的核実験禁止条約(CTB T)は保有国が非保有国に不平等性、差別性を押しつけている。そ れが核の無政府状態の広がり―インド、パキスタンの核実験を生 み、イランやイラク、リビア、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮) などの核疑惑がいつ顕在化してもおかしくない状況に陥れている。

 しかも今回の事態に際し、米国内でミサイル防衛体制への取り組 み強化を求める声が再燃、これを受けて上院でのCTBTの審議が 遠のく恐れが出ている。

 インドとパキスタンを席に着かせる国際会議の開催は英国の提唱 である。日本には、主導権を持ってこの実現に貢献する責務があ る。一方で保有国に核軍縮のプログラムづくりを迫ることが欠かせ ない。日本もまた問われている。


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