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日本政府の核政策批判'98/7/9
(7)メディアの反応
「核大国寄り 説得力弱い」
100人以上の報道関係者が詰めかけ、熱気が会場を包んだプレスクラブ
(6月16日、インド・ニューデリー)「日本は核大国には制裁をしないのか」―。被爆者の武田靖彦さん(65)=広島市安芸区=らが記者会見を開く度、この質問が投げ掛けられた。平和行脚は、日本の核政策への批判に困惑する旅でもあった。
質問の真意を確かめに、インド・ニューデリーのビジネス街の一角にある英字紙「ヒンドゥスタン・タイムズ」を訪ねた。 「五人の酔っぱらいが毎日酒を飲み、他の人に『体に悪いから飲むな』というようなものだ」。四階の副編集長室。アシュ・ナライン・ロイ副編集長(48)は核拡散防止条約(NPT)で核独占を図る五大国を皮肉った。笑顔がとても人懐こい。
だが、日本政府批判へと話が移ったときは真顔になった。「なぜ米国には経済制裁しないのだ。欧米諸国と一緒に経済成長ばかり考え、核廃絶のことを忘れていたのではないか」
◇ ◇ ◇ 六月二十四日、パキスタン・ラワルピンディのホテルであった記者会見後、ウルドゥー語紙「デイリー・ジャン」のペルゼズ・ショーカット記者(35)は声を強めた。「核実験をしたインドに、日本がどんな制裁をしたというのか」
返す刀で自国の核実験を弁護する。「インドに対抗するためには必要だった。民衆は報道姿勢を支持している」と胸を張った。
印パ両国での記者会見は、それぞれ二回、計四回に及んだ。日本政府批判に、広島県原水禁の坂本健事務局長の額にいつも汗がにじんだ。「日本は核の傘を抜け出し、核保有国にもっと強く働きかけるべきだ」などと答えたが、歯切れは悪い。
◇ ◇ ◇ 武田さんも「米国の核兵器に守ってもらい、何でも共同歩調をとる日本の政策を変えれば、説得力も増すのだが」。苦しげに顔をゆがめるのだった。 ただ、鋭い質問にもかかわらず、報道はおおむね客観的に派遣団訪問の事実を伝えた。
ロイ副編集長のヒンドゥスタン・タイムズも、六月十七日付の紙面で「日本の派遣団が平和のメッセージ」との見出しで大きく紹介。きのこ雲の写真を掲げる武田さんの写真を掲載した。
二十四日付のパキスタンの英字紙「ザ・ニューズ」。武田さんの言葉「あなたの花を死なせないで」を見出しにとり、カラー写真付きで報じた。
◇ ◇ ◇ 平和行脚は印パ両国のマスコミの核問題に対する関心の温度差も感じさせた。
ニューデリーではプレスクラブに五十社、百人以上の記者らが詰めかけたのに対し、パキスタンは二回の会見で計二十人足らず。カザフスタンのセミパラチンスク核実験場の名前すら知らないパキスタン人記者もいた。
「一回きりの線香花火ではいけない。何度でも被爆者が来て証言すればきっとメディアも核の脅威を報じるようになると信じたい」。六月二十六日、パキスタン・ラホールで、最後の記者会見を終えた武田さんは、表情を引き締めた。
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