【核兵器のない地球への航海図】


●歴史から学ぶ

 中国新聞は広島市に本社がある地方の新聞です。地域に住む人の身のまわりで起きることを報道する中で50年前、原爆に遭いました。それは同時に「核時代」との遭遇でした。地域の人と一緒に考え、広島から核時代の地球を報道してきました。この本もその営みから生まれました。

 みなさんは身のまわりの環境と優しく接し、自分の命と同じ時代に生きる人の命を大切にしてください。そのために自分ができることは何かを考えてみてください。原爆の被害を正確に知ること、戦争の歴史を知ることもその一つです。事実から目をそらせば、被害と悲しみが繰り返されるのを防ぐことができなくなります。

●知恵と愛の世紀に

 人類は争いによって多くの幸せを失いましたが、知恵と愛によって多くの幸せを生み出してきました。そのマイナスとプラスの決算額が、現在の地球の上にあります。できることなら、皆さん方の生きている時間を、知恵と愛が、争いを上回る時代にしてください。

 この本では、おもに前の時代が残した課題について考えてきました。ヒロシマにとっては特に核兵器が気がかりでした。それは対応が急がれる今日の問題です。今もヒロシマ、ナガサキに心を寄せる多くの人々が核兵器をなくすために発言し、行動しています。そのよりどころとなる街の一つが広島です。昔、船乗りたちが立ち寄った港で人と出会い、次の航海の準備をしたように、みなさんにとって広島との出合いが深い意味を持つようにと祈っています。

●共生の潮流を大切に

 みなさんの生きる時代は、世界の人がひんぱんに交流し合って生きる時代です。これまで国家の力は強固で、違う民族や国民の間に高い垣根がありました。今はもう一国だけ孤立しては生きられず、共生によってこそ豊かに生きられることが分ってきた時代です。

 一つの食卓にも、世界各地からきた魚や野菜や飲み物が並んでいます。一台の車にも世界中から集めた原材料や技術やアイデアが詰まっています。人がよりよい生活を求めると、ひとりでに世界中の人の力を借りるようになる不思議な力を、ある学者は「見えざる手」と呼びました。「見えざる手」は食べ物や車だけでなく、人と人のつながり、感情を表す音楽や芸術、価値観を伴う情報まで、地球を一つのネットワークにつなぎ始めているのです。

●希望への前進

 相互依存と国際協力の前進は「平和のための対話」にとっても有効な変化といえます。核兵器が非人道的兵器であり、核兵器を持つための膨大な支出が国民の税金であること、持てば持つほど自国の危険も増大することに、各国の国民がいつまでも気付かずにいるとは思えません。

 平和の準備をすること、核兵器のない地球へ大きくカジを切ることは、人類が20世紀の残された時間に行うべき仕事です。新しい時代と柔軟な感性で出合う最適任者は若いあなたです。対話のネットワークの中で世界の若者が出会って新しい時代の航海図を描き、交流の帆を大きく広げて平和の風をしっかり受け止めてくれるように望んでいます。

●世界の人々と話す

 1983年6月、ヒロシマの心を世界に伝えようと、デザイナー団体である日本グラフィック・デザイナー協会(JAGDA)と財団法人広島国際文化財団が共同制作した「ヒロシマ・アピールズ・ポスター」の第1回作品が発表されました。亀倉雄策さんの作品は、幻想的な表現の中に核への恐怖感をこめたものでした。その後も毎年一点ずつ新しいポスターが制作され、広島国際文化財団は1990年までこの活動に携わりました。
 広島国際文化財団は平和のための活動として、1979年から1988年まで、アメリカを中心にした海外ジャーナリストを広島、長崎に招く「米地方紙記者招請プロジェクト」を展開。1992年からはアジア各地の記者たちを招く「アジア記者招請プロジェクト」を始め、アジアの人々の目でヒロシマの歩みを見てもらうと同時に、平和を考える共通の基盤を求めようとしています。
亀倉雄策さんが描いた第1回「ヒロシマ・アピールズ・ポスター」
●平和を学び、平和を考える

 この本と出合って、みなさんは、どんなことを感じ、どんなことを考えましたか。

 時代はどんどん変わり、新しい感性や理念が生まれてきます。大人から見ると危なっかしい印象の変わり方もあります。しかし多くの変化は、多数の人の幸せを妨げている制度や考え方を壊して、より人間的で率直なルールを生み出していくものです。みなさんが再び、戦場へ行くことも、多数の人命を奪うような兵器に頼ることもないと信じています。

 広島に毎年、大勢の若い人、少年少女たちがやってきます。過去のできごとについて学ぶことは、みなさんがより良い変化を選択することに、きっと役立つと思います。原爆ドームはやがて世界遺産になり、今後も世界の人に平和を語り続けます。みなさんは、みなさんの住む街で、平和について考え続けてください。そして、みなさんが後輩たちに、ヒロシマについて知っていることを教えてあげてください。