海峡に揺れて

在外被爆者支援策

来日できない人 受給の道険しく
 


 厚生労働省の推計によると、朝鮮半島と北南米の在外被爆者は四千三百三十五人いる。ただ、被爆者健康手帳を持っていない人がいたり、それ以外の国の被爆者数は不明だったりで、在外被爆者の全容はつかみきれていないのが実態だ。

 朝鮮人については、いったい何人が被爆したのか諸説ある。在韓被爆者に対しては一九八〇年に日韓両政府が渡日治療を始めたり、九〇年代に日本政府が四十億円の支援基金を拠出したりした。一方、六〇年前後の帰還運動で北朝鮮に向かった被爆者も多数いたが、国交がなく、具体的な支援策は実現していない。

 被爆者援護法に国籍条項はないが、在外被爆者が手帳を取得するには日本に来て手続きをする必要があり、健康管理手当などを受給するにはその手帳所持が前提となる。高齢で寝たきりなど渡日できない事情のある人に支援の手は届きにくい。

 しかも一九七四年に当時の厚生省公衆衛生局長が出した「四〇二号通達」で手当受給は日本滞在中に限られていた。二〇〇二年十二月の大阪高裁判決が在外被爆者の受給資格を認めたのを機に、〇三年三月から海外にいても手当が送金されるようになった。

 現在の在外被爆者支援メニューは、手帳取得のための来日や滞在費助成▽現地での健康診断や相談▽渡日治療の渡航費補助▽医療・福祉関係者の研修受け入れ▽渡日できない被爆者に被爆確認証を発行する職員の派遣▽情報提供▽医療費助成―の七項目ある。


在外被爆者の個別人数
(厚生労働省の推計値)

韓国 2,140人
北朝鮮  928 
米国1,060 
カナダ   24 
ブラジル  157 
アルゼンチン   14 
パラグアイ    4 
ボリビア    6  
ペルー    2 


在外被爆者をめぐる動き
1910年 8月 日本が韓国を併合
45・ 8  原爆投下。日本の敗戦、韓国では解放(光復)記念日
67・ 7  韓国原爆被害者援護協会が発足
71・10  米国原爆被爆者協会が発足
74・ 7  東京都が独自の判断で、在韓被爆者辛泳洙さんに初めて被爆者健康手帳を交付▽厚生省公衆衛生局長が「402号通達」を出す
77・ 3  米ロサンゼルスで初の日本人医師団による在米被爆者検診が始まる
79・ 5  広島県が南米移住の被爆者24人を確認
80・11  日韓両政府による在韓被爆者の渡日治療の試行始まる
88・ 6  政府間ベースの在韓被爆者渡日治療打ち切りを受け、民間団体が渡日治療継続を決定
90・ 3  広島県医師会が南米に移住した被爆者の里帰り治療実施を決める
5  日韓首脳会談で日本政府が在韓被爆者の医療支援として40億円の拠出を表明
2002・ 7  在外被爆者支援事業始まる
12  在韓被爆者訴訟の大阪高裁判決で国が敗訴
03・ 3  厚労省が402号通達の「海外居住者は被爆者援護法の適用対象外」を削除。手当の海外への送金スタート
04・11  国事業の実施主体として広島市などが在外被爆者への医療費助成実施を決定
05・ 1  三菱広島元徴用工被爆者訴訟で、広島高裁が国の在外被爆者への賠償責任を認める原告一部勝訴判決



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