東京か広島か。移住先に選んだあこがれの国で、知っていた地名は二つ。「東京は物価が高かった」。五年前から広島市安佐北区に住むオランダ人芸術家、メンデル・ジョンカースさん(26)の平和論は拍子抜けするほど、さりげない。 「心が穏やかな状態、それが平和さ」 喜怒哀楽で言うなら、「怒」と「哀」に心が波立っている日は創作しない。「自分が、平安な気分で日々過ごすこと。まず、それから」 南区段原地区の表通りに、メンデルさん制作の姿見を据えた美容室がある。長さ二・五メートルの落葉樹の板を水滴形に削り出した。豆電球の光の粒が鏡面を縁取る。「鏡に映る、みんなの幸せを祈って作ったんだ」
作品はいつも、自然の象徴の木と、現代社会を表す金属の組み合わせ。「使い捨て社会のシンボル」のプラスチックは素材にしない。どれも平和都市広島に来て、思いついた創作スタイルだ。
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