中国新聞

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20021001
臨界の波紋 JCO事故から3年




東海村村長インタビュー
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健康被害
消えぬ痛み 補償なく
 

被曝住民、国内初の提訴

 「本当は妻も同席して話せるといいのだけど、あの日のことを思い出すと体が震えたり、頭痛がしてどうにもならないんだ」

 妻の恵子さん(63)と一緒に小さな自動車部品工場を切り盛りしてきた大泉昭一さん(74)は、か細い声で言った。事故を起こした核燃料加工会社ジェー・シー・オー(JCO)東海事業所の転換試験棟から大泉さんの工場までは、西へ約百二十メートル。事故当時は、夫妻のほかに二人の従業員が働いていた。

 ▽今も抗うつ剤

 「ちょうど事故発生時の午前十時三十五分ごろ、妻は屋外の水道でバケツについたハンダを洗い落としていた。二十分ほどして建物内に戻ったが、窓はすべて開けたままだった」

 大泉さんらが事故を知り、隣町の日立市の自宅へ戻ったのは、その日の午後四時ごろ。中性子線などを浴びた恵子さんは翌日未明から激しい下痢に見舞われ、口内炎の症状が現れた。

 元気で働き者の恵子さんはその後、胃かいようで三週間、さらにうつ病で約五十日入院。今も抗うつ剤を飲み続ける。今年六月には、都内の大学病院で事故との因果関係を認める「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」と診断された。

 「私ももともと弱かった皮膚が、事故で水膨れのようになって入院したり、糖尿病が悪化して治療を続けている。十月には両目の白内障の手術も受けなければならない」と大泉さん。

 事故後、働けなくなった恵子さんに加え、自らの体調不良もあって昨年二月には工場を閉鎖せざるを得なくなった。

 ▽基準値が壁に

 この間、大泉さんは百人余が加わる「臨界事故被害者の会」の代表世話人として、JCO側と健康への被害補償について交渉を重ねてきた。だがJCOは、五〇ミリシーベルト以下なら病気になるはずがないという科学技術庁(現文部科学省)が打ち出した基準を盾に、住民への被害補償を一切認めていない。

 同庁の事故調査対策本部が示した大泉夫妻の被曝線量は、いずれも六・五ミリシーベルト。他の機関の調査では、二人の被曝線量は六倍以上にもなっている。

 「私たち被害者にとっては、被曝線量よりも、事故後に病気になった事実こそが問題」。JCOの誠意のない対応に、大泉さん夫妻は九月三日、JCOと親会社の住友金属鉱山を相手に、総額約五千七百万円の損害賠償を求め、水戸地裁に提訴した。原子力事故で、住民が健康被害補償を求めて法廷に訴えるのは国内初のケースである。

 ▽差別恐れ断念

 「会のメンバーには、ほかにも一緒に訴えたいという人たちがいる。でも、親類に迷惑をかけるとか、子どもの結婚や就職で差別を受けるかもしれないと断念した」

 「原子力の町」で、住民が声を上げるのは容易ではない。それだけに大泉さんは「この裁判は自分たちだけでなく、一方的に被害に遭って苦しむすべての人たちのものだ」と強調する。

 「仮に裁判で被害が認められないとすれば、将来、原子力事故によって遭遇するかもしれない同じような被曝者も切り捨てられてしまう」。大泉さんが提訴したもう一つの理由でもある。
「事故発生時、妻はJCOに一番近いここの水道でバケツを洗っていた」と話す大泉さん(茨城県東海村)

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