(01.08.07)

社説 非核の新世紀を

 核廃絶・援護の原点に

 二十一世紀最初の「原爆の日」のきのう、広島市平和記念公園の 原爆慰霊碑に、世界の人々の、とりわけ核保有国の為政者の心がど れだけ向けられたことだろう。「安らかに眠って下さい 過ちは繰 返しませぬから」―碑文に込められた「原爆犠牲者への弔意」は 「被爆者の援護」に、「原水爆禁止」の誓いは「不戦・非核」へつ ながる。ヒロシマの思想の原点だ。願いは新世紀への目標として引 き継がれた。8・6をめぐるさまざまな取り組みの中心テーマに核 廃絶と在外被爆者援護が据えられたことが、それを物語る。

 広島市の秋葉忠利市長は、きのうの平和宣言で「平和と人道の世 紀」へ邁進(まいしん)しようと世界へ呼び掛けた。人類の脅威は 核兵器だけではない。通常兵器の地域紛争、環境破壊、さまざまな 暴力、いじめが取り巻いている。自らの「種」を絶滅に追い込む人 間の業、心の変革なくして平和な社会は望めない。和解、理性と良 心―「人道」によってこそ平和も核廃絶も可能との訴えに異論はな く、分かりやすい宣言だった。一方で、全体的に優しいトーンで核 大国の身勝手さへの「怒り」に欠け、物足りなさを感じた市民も少 なくなかったのではないか。国際合意「核廃絶の明確な約束」の実 現などの主張を多く盛り込む予定の長崎市平和宣言(九日)に比べ ても世界情勢へ立ち向かう具体的提言が乏しかった。

 政府へは非核地帯創設や核兵器禁止条約締結の推進を迫った。小 泉純一郎首相に要望する場にもさまざまな課題を出した点は評価し たい。包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効や「核の傘」 に頼らない信頼醸成への平和外交をはじめ、米ロの臨界前核実験の 中止要請、ミサイル防衛構想への慎重な対処などだ。

 が、会談はわずか二十五分で、事前に出した要望書に国が回答文 書を渡しただけ。首相は平和記念式典でCTBT発効への努力を強 調したが、核爆発を伴わない臨界前核実験には反対せず、ミサイル 防衛構想も理解するとの従来の立場を文書で提示。非核地帯創設の 環境も整っていないとして日米安保体制を堅持し、核抑止に依存す る考えから出なかった。しかも、やり取りする時間がなく論議が深 まらなかったのは残念だ。

 首相を被爆地に迎える年一回の機会だけに、来年からはじっくり 対話できる場にしてもらいたい。特に核の傘は核廃絶を海外へ広め ようとするときに矛盾として反論される。最近の世論調査で核の傘 は「必要ない」との答えが55%に増え、田中真紀子外相さえも疑問 を漏らした。「小泉改革」に核依存政策の点検を加えることがヒロ シマの課題だ。

 被爆者の要望を聞く場では、在外被爆者の援護問題が柱になっ た。首相と坂口力厚相は援護法の見直しを始めた検討会の報告を年 末までに得て「しかるべき措置を講じる」と述べるにとどまった。 援護法に居住地の制約がないのは明らかで、占領下の沖縄への適用 実例もある。等しく適用する運動を盛り上げたい。原爆被害者の全 容を把握する被爆国の責務でもある。それが、ひいては核兵器使用 の違法性を問い、世界に増えている核被害者の救済へとつなげる大 きな意味がある。


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