(01.08.04)
IT時代の体験継承
広島市内の中学三年生、堀越千尋さん(15)は、家族で作るインタ
ーネットのホームページに「平和のメッセージ」を掲載している。
小学校二年生の時に埼玉県草加市から広島市に転校してきた千尋
さんは、浜田市に住む祖母道子さん(71)から被爆体験を聞いてショ
ックを受けた。爆心から一・二キロの女学校で校舎の下敷きになり
重症を負った道子さんは、子どもにも口を閉ざしていた被爆体験を
孫に話した。
祖母から学んだ恐ろしい被爆体験を基に一九九八年、子どもピー
スサミットで意見発表した「平和な世界を願って」や、子ども代表
として平和祈念式で読み上げた「平和への誓い」を千尋さんはホー
ムページに書き込んだ。このホームページをきっかけに電子メール
のやりとりが、全国の子どもたちと広がった。
インターネットの世界では年齢や地位は関係なく、みんな平等で
自由に意見が言える、と千尋さんは言う。現在、世界に発信したい
と、意見発表した作文を英訳する作業を進めている。
被爆から五十六年。広島市内の被爆者の平均年齢は七十歳台に乗
った。被爆者の高齢化は進み、そして着実に減っていく。修学旅行
生に被爆体験を語り続けた「ヒロシマを語る会」が今年三月に解散
したように、被爆者による体験継承は年々細る。
体験継承の拠点になる原爆資料館の入館者数も、二〇〇〇年度は
百七万五千人余で、五年連続で前年度を下回った。中でも修学旅行
生は三十四万人余で、ピークだった八五年度の約六割まで減少し
た。
資料館は、入館者の減少を少子化や修学旅行の多様化が影響して
いると見ている。しかし、現在の資料館は被爆資料の展示が中心
で、バーチャル映像時代に育った新しい世代に対応した、体験的な
映像や音響などで見せる施設になっていないのではないか。
爆心直下の町、広島市の旧猿楽町をコンピューターグラフィック
ス(CG)で復元する事業に取り組んでいる田辺雅章さん(63)は、
爆心地の動く映像や被爆瞬間のバーチャル映像などデジタルメディ
アを備えたものにすべきだ、と指摘する。
田辺さんがCGで爆心地の暮らしを復元することは、被爆前と被
爆後を比べてみる新しい形の体験継承でもある。田辺さんや千尋さ
んの試みは、CGやインターネットを活用した体験継承の新しい可
能性を示している。
インターネットには「平和」「被爆体験継承」などのサイトが既
にたくさんある。電子メールで核兵器廃絶に関する情報を共有し、
意見を交わす「核兵器廃絶メーリングリスト」も開設されている。
これらをうまくネットワーク化すれば、新たな継承と運動の世界が
開けるはずだ。
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