中国新聞



2001/8/04

インド核軍縮・平和連合全国調整委員
スリ・ラーマンさん(58)
■まずNMD開発阻止を
印パ、核保有で不安増大
<プロフィル> インド南東部タミール・ナドゥ州出身。1967 年からジャーナリストして活躍。日刊紙インディアン・エクスプレ スの論説委員などを経て、現在フリーランサー。チェンナイ市(旧 マドラス)在住。
 
 
 ―広島赤十字・原爆病院に入院する被爆者を慰問されたそうです ね。

 被爆者がよく設備の整った病院で手厚い治療や介護を受けている のに感銘した。と同時に、半世紀以上たってなお放射線後障害に悩 まされたり、肉親を失ったことなどからくる精神的・心理的な重荷 を背負っていることも理解できた。

 ▼両国民欺く論理

 ―一九九八年五月のインド、パキスタンによる地下核実験の実施 は、核拡散防止条約(NPT)や包括的核実験禁止条約(CTB T)にチャレンジするものでした。

 インドのバジパイ政権は核実験を行うことで「核クラブ」入りを 果たしたかった。それが「大国の証(あかし)」と思ったからだ。 実際、実験直後には多くの国民が熱狂的に支持し、新聞などマスコ ミの論調もそうだった。

 ―印パ両政府は、核兵器を保有したことで戦争の抑止につなが る、と言っています。

 それは両国民を欺く論理だ。領有権をめぐって印パが争うカシミ ールでは今も戦闘が絶えず、多くの犠牲者を出している。より安定 した関係になったかというと、インド側で言えば、通常兵器で劣る パキスタンがいつ核兵器で攻撃をしかけてくるかもしれない、と疑 心暗鬼になっている。実際、両国とも核兵器を安全に管理する技術 者の不足とか、誤使用を防ぐためのセーフガードの措置も十分でな い。

 ―核実験以前よりも危険が高まっていると…。

 その通りだ。私は実験の成功にわく両国民の姿に接しながら「核 兵器所有で印パ対立は解決できない。悪化させるだけだ」と、公然 と訴え始めた。そしてその年の七月に「核兵器に反対するジャーナ リストの会」を設立した。その運動はやがて科学者や労働団体、学 生組織などにも広がり、昨年十一月に「核軍縮・平和連合」へと発 展した。現在、全インドで百以上の団体が加わっている。

 ▼市民同士連携も

 ―どのような活動をしてきたのですか。

 核兵器に反対するデモや、市民を対象にしたセミナー、核保有が 決して問題解決につながらないことを易しく解説した冊子の発行 …。七月のアグラでの、ムシャラフ・パキスタン大統領とバジパイ 首相の首脳会談前には「パキスタン平和委員会」のメンバー約四十 人をニューデリーに迎え、インド側の二百人と平和交流を持ち、核 兵器開発の中止などを求めるアピールを出した。

 ―しかし、首脳会談では共同声明すら出せませんでした。

 カシミールをめぐる対立に加え、原爆製造だとかミサイルの改良 開発などをしているのではないかと互いに疑っているからだ。

 ―バジパイ政権は、米国の本土ミサイル防衛(NMD)構想を支 持しています。

 支持の理由は、ブッシュ政権がNMDの配備とセットで、大幅な 戦略核兵器の削減をうたっているからだ。でも、その削減は核弾頭 を千五百発とかに削減するというものに過ぎない。本当の狙いは、 米国による経済制裁の早期解除や今後の経済協力の強化などにある のだろう。

 ―パキスタンは、今もインドがCTBTやNPTに署名しなけれ ば両条約に加わらないと主張しています。

 インドも、米国や中国がCTBTに批准しなければ加盟すらし ないだろう。NPTについても、「核クラブ」入りを認められる か、それができなければ黙認してほしいとの態度だ。両国の核開発 を止めさせるには、米ロをはじめ核保有国が真剣に核軍縮に取り組 むことだ。それが実現していけば、印パにとって核開発を進める理 由がなくなる。が、米国のNMD開発などを阻止しないと、そうし た国際環境を生み出すのは非常に困難になる。
21世紀 岐路に立つ軍縮