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2000.3.22 |
年6万人超 じわり増加
原子力施設作業員の被曝
データで探る
昨年九月に起きた東海村臨界事故は、原子力事故としては国内で初めて犠牲者を出し、放射線被曝(ばく)の恐ろしさを見せつけた。しかし、被ばくによって生命や健康が脅かされるのは事故だけではない。原子力発電所では定期検査の際などに作業員の被ばくが避けられない。電力量の三分の一を担う原発の恩恵の陰に隠れて、あまり知られていない作業員の被ばくの実態をデータで探った。
全国の原発と主な核燃料施設など
年間50mSv 線量限度、一般の50倍
防護技術進み量は減る 一人当たり
原子力産業施設は、主要なものだけでも、国内に六十六ある。うち、現在運転されている商業用の原発は五十一基。発電能力は約四千五百万キロワットに上る。さらに商業用四基が建設中だ。研究開発段階の原発として、核燃料サイクル開発機構(核燃機構、旧動力炉・核燃料開発事業団)の新型転換炉「ふげん」(福井県敦賀市)、試験運転中の一九九五年にナトリウム漏れ事故を起こした高速増殖原型炉「もんじゅ」(同市)、高速実験炉「常陽」(茨城県大洗町)もある。
●中国地方2カ所
原子力産業関連の核施設は、原発だけではない。臨界事故を起こしたジェー・シー・オー(JCO)東海事業所(茨城県東海村)や、日本原燃の再処理事業所と濃縮・埋設事業所(いずれも青森県六ケ所村)をはじめ、核燃料加工や再処理施設などが全国各地に点在している。
中国地方には、中国電力の島根原発(二基、島根県鹿島町)と、ウラン濃縮を行う核燃機構の人形峠環境技術センター(岡山県上斎原村)がある。
「放射線業務従事者」が原発などの作業でどのくらい放射線を浴びたかは、放射線従事者中央登録センター(東京都千代田区)が一元的に管理。放射線管理手帳を発行するなどしている。
センターの集計によると、九三年度以降の六年間は毎年約六万四千〜六万五千人が被ばくの恐れのある「管理区域」に入って作業している。
●手帳交付29万人
八〇年代半ばから九〇年代初めまでは五万人台で推移していたが、原発が増えるとともに、被ばく作業に当たる人の数が増加した。放射線管理手帳を発行された人数は、九九年三月末までの累計で二十九万二千四百三十四人に上っている。 逆に、一人当たりの平均被ばく線量は減少傾向にある。最近五年間は1・1〜1・3ミリシーベルトで、八〇年代前半の3ミリシーベルト以上に比べて、三分の一にまで下がっている。
その理由について、資源エネルギー庁は「原発内での現場作業のロボット化や防止防護技術の向上など、被ばく線量低減の努力の成果」(原子力発電安全管理課)としている。
それでも、蒸気発生器や炉心隔壁(シュラウド)など原発の大型機器の交換工事があった年には、平均被ばく線量が増える。例えば、東京電力の福島第一原発(福島県大熊、双葉両町)でシュラウド交換が行われた九七年度だ。この年の福島第一原発の作業員一人当たりの平均線量は2・6ミリシーベルトと、全体の平均線量の倍以上になっている。
被曝線量一元的に管理 《放射線従事者中央登録センター》
各地の原発を転々と移動する作業員の被ばくが問題になったのを機に一九七七年十一月、科学技術庁の認可を受け、放射線影響協会の中に設置された。各電力会社の原発と、核燃機構や日本原子力研究所の核燃料加工施設などで働く放射線業務従事者を対象に、その被ばく線量を一元的に管理している。
健診や教育実績を記載 《放射線管理手帳》
原発や核燃料施設などで働く放射線業務従事者に、放射線従事者中央登録センターが発行。顔写真や氏名、生年月日、登録番号のほか、被ばく線量や健康診断、放射線防護教育の実績などが記載されており、原子力事業者や従事者本人は、被ばくの前歴などを確認できる。
記入ミスをなくすため、数字などの記載の機械化も一部で図られている。
人体への影響指標 《シーベルト(Sv)》
人体が同じ量の放射線を吸収しても、ガンマ線か中性子線かなど放射線の種類やエネルギーによって与える影響には違いがある。このため、人体への影響度を表すために設けられた、放射線の量を示す単位の一種で「線量当量」という。線量当量が同じなら、放射線の種類などにかかわらず、人体への影響に変わりはない。一ミリシーベルト(mSv)は、一シーベルトの千分の一。