ヒロシマの教訓忘れるな

広島を訪問中のジミー・カーター前米大統領は25日朝、広島市中区中島町、平和記念公園の原爆資料館を見学、原爆慰霊碑に参拝、献花した。米国の大統領経験者が、資料館、慰霊碑を訪れたのは初めて。同前大統領は参拝の後、慰霊碑前で、平和アピールを発表し「核による大量殺りくを防止するには世界の指導者の行動だけに頼るのでなく、世界の人々が平和を要求することだ」と呼び掛けた。

午前9時過ぎ、平和公園に着いたカーター前大統領とロザリン夫人、長女のエミーさんは荒木広島市長、深崎同市長室次長らの案内で資料館を見学。米国の大統領経験者としては初めて自国が投下した核爆弾のもたらした惨禍の前に立った。

約40分間にわたり、館内を見学。被爆パノラマや逃げまどう市民を人形で再現したコーナーなどでは、ぐっと口を結んで説明に聞き入った。米国からの返還資料の原爆キノコ雲の前や熱線被害のコーナーでは「1時間後か」「あれが原爆ドームか」など質問もした。見学後、同館芳名録に「この資料館は世界の人々にとって、平和に向けて、忘れべからざる永遠の思い出とならねばならない」と感想を寄せた。

慰霊碑に参拝、献花の後、千人余の市民らを前に「ヒロシマでのことば」と題する平和アピールを発表。ヒロシマの被害について「壊滅的な惨禍を思うと極めて厳粛な気持ちになる。この教訓は決して忘れてはならない」と述べた。一方で「米ソの軍縮交渉の不調と不和の冷戦状態に逆戻りしたことで核戦争の危険は増大している」と指摘。その防止のため「世界の指導者の心構えや行動だけに頼るのでは十分でない。私たちが平和を不断に要求していかねばならない。核兵器の廃絶が一市民としての私の終生の目標となる」と訴えた。

(1984年5月25日夕刊)