2001/11/11 患者が医師や看護婦さんと話をするとき、自分の気持ちを明かせるまでには時間が掛かったり、結局、腹を割って話をすることができずに退院してしまう人もいる。 病状のこと、これからの治療について、ちょっと分からないこと、聞いてみたいことなどが山のようにある。しかし、「ねえ、ちょっと」と立ち話みたいには、なかなかできない。ゆっくりとした時間があれば、正直なところを言える。 私の場合、看護婦さんと話をするのは、準夜の時間を選んでいた。日勤では、たくさんの業務があって忙しいことが、自分の経験から理解できる。特に手術日は、術後の患者さんの看護で緊張もしているだろうと、呼び止めたりしないようにしていた。 長い入院生活の中で不安が大きいのは、やはり入院して間もないころだ。二、三カ月経過すると、少しずつ様子や勝手が分かって、自分でどうにか暮らしていける。 「どんなですか」。ある夜、一人の看護婦さんが部屋に入ってきた。たぶん、私のイライラや話したそうな顔を察してくれていたのだと思う。物静かで、口元にはほほ笑みを浮かべている。 「いろいろ思ってるんです」 「ご心配になりますよね。実は、私の姉も卵巣がんだったんです。今は子どもも産んで、元気にしてるんですよ。遠くに住んでいるんですけど、年に一回はここへ受診に来てるんです。先生の顔を見たら安心するようで…」 個人的なことかもしれないが、看護婦である彼女が、がん患者の家族としての体験を語ってくれたことで、私はほっとした。「元気に社会復帰している人がいるのかなあ」。そんな不安を吹き飛ばしてくれた。その夜は胸がすっとして、穏やかな眠りについた。 それからというもの、彼女のことが気になった。それとなく様子を見ていると、どの患者さんの話も聞いてあげて、優しく接しているんだなあと分かる。患者は心も体も傷ついている。傷つきやすいことを十分知ったうえで、声を掛けてくれると、患者は本当にいやされるのだ。 |