中国新聞社

(2)思い込み 「良性」と太鼓判押され

2001/5/13

 自分が手術を受ける病院を選択する時、決め手になることは何だろうか。情報を得やすい開かれた体制であること、腕のいい医者のいること、最新の医療機器のあること、あたたかい看護サービス、快適な病室などのアメニティ…。

 訪問看護をしていると、病院を退院してきた利用者、家族からその病院の評価を聞くことが多い。評判は、口コミで広がる。私は看護婦仲間から情報を集めることにした。自分の勤務している病院を勧めるということは、それなりに実績があり、自信もあるに違いないと考えたからだ。

 その結果、規模としては中クラスの○○病院に決めた。大病院は待ち時間が長く、検査予約も時間が掛かる。その点、中規模病院は小回りが利くし、術前検査も早く、予定を立てやすいうえに、個室をとりやすい。良性腫瘍(しゅよう)で、手術時間もそんなに掛からないのなら、何よりも仕事を優先していた私には好都合だった。

 ○○病院に出向くと、担当の先生は、かかりつけ医からの紹介状に一通り目を通し、希望通りに検査を組んでくれたばかりか、結果を説明する日まで前もって調整してくれた。

 結果説明の日は、一人で出掛けた。

 「左の卵巣嚢(のう)腫は良性ですね。それ自体を摘出するのは、一時間ちょっとの簡単な手術です。子宮筋腫はどうされますか」

 「子宮は残したいのですが…」

 「分かりました。腹腔(くう)鏡で手術しますので、へその横に二センチくらいの傷が残ります」

 「先生、腫瘍マーカーが高いですよね。がんじゃないですか。父、伯父、伯母、いとこもがんなんです」。がん細胞が作り出す特殊なタンパク質が腫瘍マーカー。血中の値が高ければ、がんの可能性もある。

 「子宮内膜症があるとこの値は高くなるので、心配いりません」

 「あ、そうですか」

 二人の医師に「良性」の太鼓判を押され、簡単に治ると思い込んだ私は、二週間の予定でスケジュールを空けた。そして入院直前まで仕事に飛び回っていた。

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