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武器が生まれ変わる
争いがない社会へ一歩

「武器が生まれ変わる」と聞いて何を想像しますか。戦後65年がたち、日本で暮らす私たちにとって武器は、なじみがないかもしれません。

しかし、世界には多くの武器があります。その中には平和のメロディーを奏でる楽器に姿を変えた例もあります。リサイクルされ、人々の暮らしも支えました。

「ひろしま国」が理想としているのは争いのない世界。人々が武器を持たず、平和に暮らすためにはどうすればいいでしょうか。私たちは取材を通し、そのヒントを見つけました。

1冊の絵本にも出合いました。大砲の音が平和の音色に変わる物語です。世界では、今なお武力による紛争が後を絶ちません。私たちは平和な世界を願い、武器を生まれ変わらせるストーリーを考えてみました。


平和の音色 被爆地から響く
「キンコンカンせんそう」翻訳 アーサー・ビナードさん

絵本「キンコンカンせんそう」あらすじ
(イタリアの児童文学作家ジャンニ・ロダーリ作)
    ある場所で戦争が続いています。やがて武器を造るための金属が足りなくなりました。教会や学校から鐘を集め、巨大な大砲を造りました。しかし撃ってみると鳴り響くのは「キンコンカン」という音色です。兵士は「平和の始まりだ」と武器を捨てて踊り出しました。

ビナードさんへのインタビュー

今年8月6日に出版された絵本「キンコンカンせんそう」は、東京都在住の米国人詩人アーサー・ビナードさん(43)が翻訳しました。絵本には1発で戦争に勝てるという大砲が登場します。アーサーさんは「絵本の大砲は核兵器を意味している。世界一愚かな兵器だということが、物語を通して伝わる」と話します。

絵本を手に、核兵器や戦争の愚かさを訴えるビナードさん

国中の鐘を集めて造った巨大な大砲が、撃つと「キンコンカン」という平和の響きを奏でるお話です。ビナードさんは鐘の合図を「へいわぼっぱつ(平和勃発)のおまつ(祭)りさ」と表現しました。そこが物語の心臓部です。日本でもよく使われる「戦争勃発」という表現に異議を唱え、「平和は勃発するが、戦争は長い準備があって起きる。勃発することはない」と強調します。

「『戦争を続けていると核の冬が来て人類が終わる』と訴え続けているのがヒロシマとナガサキだ」とビナードさん。被爆地からは「平和勃発」の音色が響いている、と言います。

武器の再利用についても聞きました。例えば劣化ウラン弾が使われた地域では、金属などが汚染されてしまいます。「戦争をしなければ、兵器をリサイクルする必要もない」と力を込めます。(高3・楠生紫織、写真も)



劣化ウラン弾 原子力発電や核兵器に必要な濃縮ウランをつくった後の廃棄物を使った砲弾。放射性廃棄物の処理方法の一つとして発案された。鉄や鉛より重く、厚い戦車の鉄板も貫く。爆発すると高温で燃え、ウランの粒子が拡散するため、健康被害が心配されている。



銃→ギター

コロンビアの音楽家活動

 
音楽で暴力反対。人も変われる

銃から作ったギターを手にするロペスさん

銃をギターに替える活動があります。提案したのは南米コロンビアのミュージシャン、セサル・ロペスさん(37)。ロペスさんは「恐ろしい武器を平和と和解の道具にかえ、暴力反対のメッセージを伝えたい」と願います。

ギターになった銃は、もともとコロンビアで活動するテロリスト集団や犯罪組織が使っていました。危険な部分を取り除くなどして改造し、ギターにします。

国連薬物犯罪事務所(UNODC)は2005年から、この活動を支援しています。同事務所コロンビア代表のアルド・ラレ・デモスさん(54)は「コロンビアはこの60年、内部の武力闘争で苦しんでいる。ともに平和を訴えたい」と言います。

ギターは米国ニューヨークの国連本部で展示されているほか、音楽で平和を訴えているミュージシャンや市民組織も所有しています。

ロペスさんは、ブラジルのスラム街で暮らす若者の言葉が忘れられません。「武器が生まれ変われるのなら、僕だって変われるよね」と言ったそうです。(高2・高田翔太郎)




軍用船→防波堤

呉市安浦の漁協陳情

 
技術は高い。どう使うかが大切

防波堤になったコンクリート船の上で説明する山田さん(撮影・中2木村友美)

コンクリート船「武智丸」は、呉市安浦町の三津口湾で防波堤として再利用されています。武智丸は太平洋戦争中、鉄不足のため旧海軍が造り、軍需物資を運んでいました。

山田さんへの取材風景

戦後、台風の被害に苦しんでいた地元の漁業者らが、防波堤の設置を広島県に依頼しました。しかし、海底の地盤が軟弱だったため、当時の技術では造れませんでした。

そんな時、呉と大阪にあったコンクリート船2籍を防波堤に使ってはどうかという話が入りました。国に払い下げを求め、1950年、第1、第2武智丸2隻のコンクリート船を使った防波堤が完成しました。

呉市まちづくりサポーターで地元に住む山田賢一さん(62)は「コンクリート船を造る技術に感心する一方、物不足で苦しんだ当時の様子もうかがえる。高い技術を平和のために使ってほしい」と話していました。(中3・小坂しおり)




銃床→燃料

東京の豆腐店活用

 
互いに犠牲。加害者意識が必要

東京・池袋に豆腐店「大桃豆腐」があります。終戦直後、鉄砲の金属を取り除いた木の部分「銃床」を業者から買い、豆腐作りの燃料として使っていました。

2代目の大桃伸浩さん(73)は当時小学生で、作業を手伝っていました。「太平洋戦争で使われた銃だと思う。手入れのための油がしみこんでいたのだろう。よく燃えた」と振り返ります。

「日本人を殺した鉄砲かもしれない。でも日本人が外国人を殺した鉄砲もいっぱいあるはずだ」と大桃さん。当時は気にせず使っていましたが、今は「被害者としての立場だけでなく、加害者意識を持たないといけない」と感じているそうです。

物のない時代を知っている大桃さん。戦時中、大桃さんの母親は栄養不足で母乳が出ない女性に豆乳を分けていたそうです。「平和とは毎日、不自由なく食べられること」と力を込めます。(中2・木村友美)



ジュニアライター作ミニストーリー



隣り合う二つの国、サクソとユーホが戦争をしていました。バリバリ、ドーン。ユーホ軍のレオン少尉は戦車を使って咲いている花を踏みつぶし、元気に遊んでいる子どもを攻撃します。この戦争はいつまで続くのでしょうか。

サクソ国の少女リナが戦車に攻撃され、両腕を失いました。音楽が大好きな明るい少女でした。彼女の国では体に武器を埋め込む実験をしていました。リナは治療のため軍の施設に運ばれました。実験台にされ、両腕が鉄砲になりました。さらに悲劇が襲います。誤作動を起こして仲間にけがをさせてしまいました。仲間外れにされたリナからは笑顔が消えてしまいました。

レオン少尉は戦車で罪のない大勢の人を傷つけ、殺しました。そして戦争に勝ちました。古里に帰ってみると、妻や娘はサクソ軍に殺されていました。残ったのは戦車だけでした。少尉はやっとわれに返りました。戦争で愛する人を失う悲しみを知りました。

レオン少尉は戦車でサクソ国へ行きました。荒れ果てた地。遠くに少女の姿が見えました。戦争で殺された自分の娘のように思えました。それはリナでした。少尉は、腕から鉄砲をはずして楽器を埋め込もうと言いました。リナはうそだと思いました。相手は敵国の兵士です。何をされるか分からない。人間兵器リナは戦争で心も体も傷つき、人を信じることができません。

少尉は戦車を溶かし、特製のトランペットを作ってリナに見せました。手術が終わり、リナが自分の体を見ると、腕にピカピカのトランペットがはめ込まれていました。

リナが演奏を始めると、子どもたちが集まってきました。敵も味方も関係ありません。かつて戦車が発した爆音ではなく、優しい音色が辺りを包みました。リナにも笑顔が戻りました。それからレオンとリナは、平和の音楽を奏でながら世界中を旅しています。

(高3・楠生紫織、中2・寺西紗綾、中2・来山祥子)

イラスト

(イラストは中2・寺西紗綾、タイトルカットは中2・来山祥子が担当しました)