殺処分されている犬、猫を、少しでも減らそうと活動している団体があります。動物管理センターに収容された犬、猫などの新しい飼い主を探す活動で、広島市では、2006年度に72・7%だった犬の殺処分率が、09年度には37・2%にまで下がりました。
野良猫の出産を抑え最後まで責任持って面倒をみる「地域猫」の活動は、すぐに成果が表れない地道な取り組みです。背景には多産という猫の特性があります。猫は生まれて半年もすると妊娠します。しかも交尾するとほぼ妊娠します。1年に2、3回出産し、1回に8匹産む場合もあります。「かわいそう」と餌をあげるだけでは子猫が増えるばかり。病気や交通事故のほか、センターに収容されて死んでしまうのです。
海外の例では、ドイツの政策を取り上げました。日本で1年間に27万匹も殺されている犬や猫。自分たちにできることを見つけるヒントになればと思います。
「嫌いな人」も見守り協力 横浜の地域猫 |
「ふん尿が臭い」「家の前に誰かが置き餌をしていく」。保健所に寄せられる野良猫の苦情です。そのような被害を、人と猫の共生によって解決する「地域猫」という取り組みがあります。
特定の飼い主はいないものの不妊去勢手術を受け、「地域の飼い猫」として飼育されています。周囲の人たちから地域猫と認識してもらっているかどうかが重要です。
1997年、横浜市磯子区で始まりました。飲食店の生ごみなど野良猫が生活しやすい環境があり、苦情もたくさんありました。区の担当者が発案しました。市民ボランティアと動物病院、行政が連携した活動です。
中心となる協議会は99年に発足しました。猫の世話をする実践グループ、動物病院、猫の被害に悩まされている住民や趣旨に賛同する市民で構成されています。
実践グループのメンバーからもらった餌を食べる地域猫(横浜市の磯子区猫の飼育ガイドライン推進協議会提供) |
実践グループは、協議会が作った飼育ガイドラインに沿って、決まった時間・場所での餌やりと片付け、トイレを作って後始末するなどの世話をします。「迷惑だから餌をやるな」と指摘された場合、ガイドラインをきちんと守って世話をしていることを説明して理解を求めます。
動物病院は、実践グループの地域猫への不妊去勢手術を格安でやっています。手術費用の助成制度もあります。手術は猫の数を現状で維持し、将来的に減らしていくことにつながるからです。
磯子区には現在27の実践グループがあり、計約380匹を世話しています。活動地域ではふん尿などの苦情が減っています。動物看護師で協議会メンバーの佐藤由起子さん(40)は「猫が嫌いな人も含めて協力する体制ができていることがポイント」と話します。一方で「効果がすぐに目に見えるわけではない。絶え間ない努力をする覚悟で始めないと続かないでしょう」と教えてくれました。(高3・見越正礼)
施設と次の飼い主 橋渡し 広島のパウズハート |
広島市動物管理センター(広島市中区)に収容された犬や猫などの新たな飼い主を探す活動をしている団体があります。「パウズハート」です。2009年度は、犬と猫合わせて約100匹を、口コミやホームページ(HP)、募集会などを通して見つけた新しい飼い主に渡しました。
07年に発足しました。犬が発見された近辺に「迷子犬ポスター」を張る活動から始め、08年にHPを立ち上げました。会員は現在10人います。
運営にはお金がかかります。引き取った犬や猫は、新しい飼い主が決まるまで会員の家で世話をします。引き取ると、動物病院で健康診断しないといけません。餌代も必要です。そのため毎月、広島市中区でフリーマーケットを開いて運営資金をためています。
会員の家の前に捨て猫の入った箱が置いてあったり、「障害のある猫が放置してある」と連絡が入ったりもします。代表を務める女性(46)は「いくら新しい飼い主を探しても追いつかない。いたちごっこです」と悩みを話していました。
活動していてうれしいことは、新しい飼い主に家族として受け入れられた時です。逆にセンターから出してあげたいのに、飼い主がいなくて処分された犬や猫を思い出す時が最もつらいそうです。「もう年だから」とセンターに連れてこられた老犬は、特に飼い主が見つからないのです。
センターでの犬の殺処分率は09年度で37・2%。07年度以降、少しずつ下がってきてはいますが、なかなかゼロになりません。しかし、無理をせずに仲間と頑張って活動していきたいそうです。(中1・河野新大、写真も)
パウズハートの代表の家で餌をもらう犬 |
犬の飼育に厳しいルール ドイツ |
ドイツには、日本の保健所のような「ティアハイム」という施設があります。飼い主のいないペットや家畜を保護し、新しい飼い主が見つかるまで育てます。殺処分はしません。ドイツ国内に約900カ所あります。
ほとんどのティアハイムは、動物保護協会を通じた寄付や自治体からの援助などを受け、動物保護団体が運営しています。施設には、動物飼育の知識を持つ職員とボランティアがいて、自治体とも連携しています。
ペットを飼った経験のない人には、成犬を飼うようアドバイスしています。成犬はしつけが済み、社会生活に適応できるからです。新たな飼い主が見つからない場合、ティアハイムで死ぬまで過ごす場合もあります。殺処分は法律で禁止されているので、病気の末期で苦しんでいる場合を除き、殺されることはありません。
またドイツでは、一般的に動物をペットショップで売買できません。動物に合った広さで飼わなければいけないと動物保護法で決められているからです。ケージなどの狭い場所に動物を閉じこめることは違法になるのです。ペットがほしいときは、地元の新聞広告やネットで探したり、繁殖の専門家(ブリーダー)やティアハイムに問い合わせたりします。
生後12週未満の犬や猫の売買も控えるようにされています。この時期は、予防接種が受けられない上に、社会とのつながりや群れでの上下関係などをきょうだいとともに遊びながら学ぶ時期だからです。
さらに犬を飼っている人は住んでいる自治体に「犬税」を払います。税額は自治体によって異なります。犬税の一部は、犬のふんを入れる袋や専用のごみ箱のために使われます。犬税は自治体の収入になるだけでなく、犬の数を制限し街の秩序を維持するという効果もあるのです。(高2・岩田皆子)
イラストは中2・佐々木玲奈が担当しました。 |