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ストップ食料危機 今できること
食卓から自給率アップ

いつも口にしている食べ物が、どこで作られているのか、知ってますか? 米やキャベツ、レタスなどの野菜はほぼ国産ですが、小麦や大豆、しょうゆ、塩などの多くは輸入品です。国産の肉や卵も、輸入した飼料を餌にしているのです。

日本の食料自給率(カロリーベース)は41%しかありません。6割近くを輸入に頼っています。気候変動や人口増などでもし輸入がストップしたら、私たちの食卓はどうなるのでしょう?

人間は食べ物がなくては生きていけません。日本は食べ物が余っていて「飽食の国」と言われています。一方、海外には飢えに苦しむ人がいたり、食料をめぐって暴動が起きたりしています。「食」で戦争も起きかねないのです。

1.「ふだんの食事の自給率をチェック」しながら、2.「食料危機に備えた動き」を探り、今日からでもできる3.「自給率アップ作戦」を考えてみました。

■ 自給率は ■ 講評は広島県農林水産局の高田善雄さん。ジュニアライターの食事の自給率は、農林水産省のホームページ内にあるソフト「クッキング自給率」で算出しました。メニューのかっこ内は主な食材です。

西田千紗記者の朝食(3月27日)

ご飯(国産)▽焼きイカ(イカ・輸入、マヨネーズ・不明)▽ワケギのぬた(ワケギ・国産、ホタテガイ・国産)▽みそ汁(豆腐・輸入、みそ・不明)▽納豆(納豆・輸入、卵・国産)

肉を使っていないため、自給率が高めになっています。しかし「イカ焼き」で、自給率1%のマヨネーズを使用。さらにイカが外国産だったので、同じメニューでの平均的な自給率(54%)より3%低くなりました。




大林将也記者の夕食(3月26日)

ご飯(国産)▽豚とタマネギのショウガ焼き(豚肉・国産、タマネギ・国産)▽サバのみそ煮(サバ・ノルウェー産)▽サツマイモとエノキダケのみそ汁(みそ・国産、サツマイモ・不明、エノキダケ・国産)

「豚とタマネギのショウガ焼き」に入っている豚肉は国産です。しかし、餌が輸入が多く、自給率は11%しかありません。また、みそ煮のサバがノルウェー産です。そのため和食でも、自給率が低くなりました。




石本真里奈記者の夕食(3月28日)

ご飯(国産)▽オムレツ(牛肉・輸入、ジャガイモ・不明、卵・国産、イチゴ・国産)▽ポトフ(ウインナーソーセージ・不明、キャベツ・国産)▽シューマイ(豚肉・不明、かたくり粉・不明)

「オムレツ」の牛肉が外国産、「シューマイ」の豚肉や「ポトフ」のウインナーソーセージが産地不明です。高カロリーな肉が多い上、国産でないため、米を主食にしているにもかかわらず、自給率が低くなりました。




完全国産メニュー(3食分)

自給率100%の食事ってどんなもの? 農林水産省が「食料・農業・農村基本計画」をもとに試算しています。1日に2000キロカロリー程度を摂取するとして、すべて国産でまかなうためには、米やイモ類が多くなります。

1日のメニュー例は以下の通りです。

朝食 ご飯、粉ふきいも(ジャガイモ)、ぬか漬け▽昼食 焼きいも(サツマイモ)、ふかしいも(ジャガイモ)、リンゴ▽夕食 ご飯、焼きいも(サツマイモ)、焼き魚。

これらに加え、国産の餌では今ほど牛や豚、鶏を育てることができないため、牛乳は6日に1杯、肉は9日に1食分ほど食べられます。ふだん、毎日のように食べている卵は1週間に1個になります。魚類は国産なら毎日食べても大丈夫です。 広島県農林水産局の高田善雄さん(46)は「ふだん食べているメニューに、いかに輸入品が多いかを実感してもらえるはずです」と言います。日ごろから少し値段が高くても国産の品を買ってほしい、と期待していました。(高1・今野麗花)

飢えが戦争起こす −元JA広島中央会専務 黒木さん

「このまま何の対策も取らなかったら食料危機になり、そうしたら必ず戦争が起きる」。元JA広島中央会専務の黒木義昭さん(66)は熱く語りました。食料をめぐって世界中で暴動や戦争が始まり、人々が殺し合うというのです。その時日本では、校庭やゴルフ場などあらゆる土地をすべて田畑にし、自国生産の米とイモ類だけで何とか命をつながなくてはならないそうです。

食料危機の原因の一つは人口爆発です。1961年に約31億人だった世界人口は現在約68億人です。2050年には約91億人になるといいます。しかし、世界の収穫面積はあまり変わっていません。それどころか砂漠化が進んでいます。単位面積当たりの穀物生産量の伸びも鈍っています。人口増に対応する生産量を保てなくなりそうです。

既に世界では6人に1人が栄養不足、また、6秒に1人のペースで子どもが飢えで亡くなっています。貧富の差による配分の不平等のためです。全人口の20%の人たちが、世界の富の80%を独占しているそうです。

現在日本の食料自給率は41%しかありません。日本は世界の食料の約10%を輸入しています。黒木さんは打開策として食料自給率向上を掲げています。すべての日本人が、主に輸入した小麦を使っているパンやうどんの代わりに、ご飯を1日1杯食べるだけで、自給率が8%も上がるそうです。

日本には食べ物があふれていて、食料のありがたみを分かっていない人が多くいるといいます。「いただきますという言葉は、食料となって私たちを生かしてくれる命に感謝し、大切に食べるという意味です。そのことをしっかり理解してほしい」と黒木さんは言いました。(高1・西田千紗、中3・石本真里奈、撮影・高3村重茜)



▼ 動き続々 ▼

最新技術で大量生産 世羅の巨大トマト温室

峠を越えると突然、未来都市のような巨大な建物が目に飛び込んできました。広島県世羅町にあるカゴメの子会社、世羅菜園です。2001年にできました。8・5ヘクタール(マツダスタジアム約7個分)もあるアジア最大級のガラス温室です。約20万本のトマトの木を栽培し、年間の出荷量は2300トンもあります。

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高度な技術を使ったトマト作りについて説明する世羅菜園の児玉専務(撮影・高3村重茜)

トマトに適した環境をつくるため、コンピューターで自動化した栽培をしています。温室内の温度調節は、外の天気や風速を計測しながら窓を開閉したり暖房をつけたりするのです。肥料は液体で、植えている培地の状態に合わせて施します。まるでハイテク工場です。

トマトの木は1年で15メートルほどに成長します。露地栽培では、長くても春から夏の間しか収穫ができません。しかし、この菜園では1本の苗で10カ月間収穫が可能です。

最先端の技術で効率よく大量生産する世羅菜園。「うちはトマトを扱っていますが、食料危機対策として、いろんな作物で大量生産が可能な方法を見つけることが必要です」と児玉剛司専務(34)は話していました。(高3・村重茜、中2・大林将也)


山菜も野菜も地元産 庄原の農家レストラン

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地元で採れた山菜や野菜、果物をたっぷり使った「りんご畑」のバイキング(撮影・中3 石本真里奈)

「地方や田舎に食料問題を押しつけないでほしい」。庄原市高野町の農家レストラン「りんご畑」の経営者の1人、長瀬利子さん(62)は言います。農作物を作りさえすれば、食料危機が防げるわけではないのです。

日本では、食の欧米化が進んでいます。米を作らないようにする減反政策の一方で、食材は輸入に頼りがちです。米や野菜を作るには機械の購入などにお金がかかるのに、高く売れません。農業だけでは生活できず、若者の農業離れも進んでいます。

「りんご畑」は、地元産の野菜や山菜を使った料理を提供しています。テーブルに並ぶバイキングは約40種類。材料の3分の1を占める山菜は、長瀬さんや、一緒に経営する前田万里子さん(61)、義志恵美子さん(57)が近くの山から採ってきます。90種類以上の野菜はほとんど、自分たちが低農薬で作ります。形が悪いなどの理由で市場に出荷できない規格外品を近所の農家からもらって使うこともあります。

「地元の食材のおいしさを知ってもらうきっかけになってくれれば」と前田さんは期待します。(高3・室優志、中2・市村優佳)

 

クラゲで農地再生 愛媛大江崎教授が研究

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砂漠や乾燥地を緑地化するための研究材料になっているエチゼンクラゲのチップ(江崎教授提供)

大量発生で漁業者を困らせているエチゼンクラゲで、砂漠を緑に返す日は近い―。愛媛大農学部の江崎次夫教授(64)は、乾燥して荒れた土地が潤い、肥えるようにクラゲを使う研究を進めています。

教授はクラゲの「保水力」に目を付けました。浸透圧を利用して塩分を抜いたクラゲを乾燥させ、細かく刻んでチップにします。土と混ぜ合わせたチップは、雨が降るとたくさんの水分を蓄えます。1年もすれば腐って養分になります。

砂漠化した土地や、火事で荒れた山を再生できるそうです。「農地に再生していけば、食料危機も乗り越えられるかもしれない」と江崎教授。既に愛媛県の山火事跡や山形県の庄内砂丘地、韓国で実験を進めています。コストさえ抑えることができれば実用化は近いそうです。(中2・佐々木玲奈)

食料危機を起こさない。私たちの提案


1. 自分で野菜を作る

まずはネギで挑戦してみましょう。根のついたネギを買い、7〜8センチに切ってプランターに植えると葉が伸びます。根と、地上に出た葉約1センチを残して収穫するとまた成長します。トマト、パセリ、キュウリなどもプランターで育てられます。(中3・石本真里奈)

2. 米やイモを食べる

国内で多く生産されています。輸入小麦を多く使っているパン、パスタ、うどん、ラーメンなどの代わりに食べましょう。(中2・大林将也)

3. 地産地消に努める

産地や生産者を意識した食事をしましょう。国産品を買い、産地が分からないものは買わない。産地不明のケースが多い外食を避けるのが大事です。(中2・大林将也)

4. 旬のものを食べる

季節はずれの野菜には輸入品があります。地元で採れた旬の食材を食べましょう。春…キャベツ、イチゴ、サヤエンドウ▽夏…エダマメ、キュウリ、オクラ▽秋…サツマイモ、サトイモ、カボチャ▽冬…ハクサイ、ダイコン、ニンジンなどです。(中2・佐々木玲奈)

5. 必要以上に買わない。食べ残しをしない

賞味期限が過ぎたり、腐って無駄になったりするのを防ぎましょう。食べられないと思ったら翌日食べるのもいいでしょう。間食を控えることも大切です。(高1・西田千紗)

6. フェアトレード商品を買う

フェアトレードは発展途上国と先進国との間の公正な取引という意味です。フェアトレード商品は生産者の利益を含んだ値段で売るので少し高くなりますが、貧しい人たちの支援になります。チョコレートやコーヒー豆、ジャム、ペンケース、アクセサリーなどがあります。(高3・村重茜)

7. 農業に関心を持つ

知り合いに農家があれば手伝ってみましょう。ミカンやナシの木のオーナーになり、農家に世話してもらう制度もあります。収穫体験ができるはずです。(高1・西田千紗)

8. 魚を食べる

日本で育てている牛や豚の飼料は、大半が輸入です。しかも、人が食べられる穀物を与えています。肉の代わりに魚、特に近海の魚を食べれば地産地消にもつながります。(高3・村重茜)


なるほどキーワード

  • 食料自給率

    国内で消費されり食料が、どれだけ国内産で占められているかを示す割合。記事では、それぞれの食材に含まれるカロリーで計算した。