「国際貢献」というと非政府組織(NGO)など市民活動をイメージする人が多いのではないでしょうか。
実は、企業もさまざまな国際貢献に取り組んでいます。寄付をする、物を届ける、自社製品を使って安全や健康に貢献するなど、方法はいろいろです。
教育の環境が十分でない国に文房具を送る企業もあれば、地雷の被害者を現地で見て地雷を除去する機械を造った企業もあります。中南米のハイチで大地震が起きました。災害時に現地へ食料を無償提供する企業もあります。
私たちが日ごろ手にするさまざまな商品にも、国際貢献につながるものがあるかもしれません。視点を変えると、企業は私たち市民と世界をつなぐ橋渡し役でもあるのです。
即席米 | 水だけで調理 被災地へ−サタケ |
精米機などを作るサタケ(東広島市)は、災害時の緊急支援活動としてお湯や水を入れるだけで食べられる「マジックライス」を被災地に送っています。 インスタントラーメンのように手軽に食べられるようにと開発されたマジックライスは、お米を乾燥させて作っています。熱湯だと15分、冷たい水でも60分でできるので、ガスなど使えない被災地で簡単に使えます。 2001年、精米機の輸出先であるインド西部の地震で3000食分を送ったのが最初だそうです。04年の新潟県中越地震でも被災地へ送っています。 08年、サイクロンでミャンマーに多くの被災者が出た時は、広島県の呼び掛けに応え、NGOを通じて1トン届けました。輸送は県トラック協会や航空会社が無償で協力しました。 課題もあります。現地までの輸送手段を持っているわけではないので、交通事情によっては届けることができません。中国の四川大地震の時は輸送する交通手段がないために断られたそうです。 支援のきっかけは、15年前の阪神大震災でサタケの営業所にいる社員にマジックライスを送ったことです。広報室の大滝直司さん(32)は「精米機販売などで世界中の人に支えられている。恩返しすることは大切」と話していました。(高1・坂田悠綺) |
地雷除去 | 大地を安全に 農地再生−山梨日立建機 |
山梨日立建機(山梨県南アルプス市)は、地雷被害を減らし、現地に学校や畑をつくってもらおうと、地雷除去の機械を造っています。 一つは平らな土地を走行しながら作業する自走型、もう一つはショベルカーを改良しました。斜面など土地の形状に合わせて旋回して作業します。アフガニスタンやカンボジアなど7カ国で70台が活躍しています。 きっかけは、社長の雨宮清さん(62)が仕事で訪れたカンボジアで、手足をなくした人をたくさん見たからだそうです。 1998年の完成まで3年かかりました。日本には武器輸出三原則があり、武器は輸出できません。地雷除去機は武器扱いでした。国に働きかけ、武器扱いから外れるのに2年かかりました。現在は、国の政府開発援助(ODA)資金を使い現地へ届けています。日本に現地の人を呼んで研修したりもしています。 一つの機械を造るのに1億円から2億円かかります。「長く続けるためには、開発費や人件費をまかなうぐらいの収益は必要だ」と雨宮社長は言います。企業の国際貢献は、自分のビジネスによって相手方がビジネスチャンスをつかむことが大切なのだそうです。 地雷を処理した土地に学校が建ち、農地によみがえったときは感動もひとしお。「安全な大地をつくることは教育をうけることや病気を治すことにつながる。現地の人も私たちもお互いに利益がある関係になることが大事だ」と強調しました。(高2・村重茜) |
文房具 | 児童に寄付 校舎建設も−カスタネット |
オフィス用品販売のカスタネット(京都市南区)は、会社を設立した2001年からカンボジアの小学校に未使用の鉛筆、消しゴム、黒ボールペンなどを送り、教育を支える活動をしています。 社長兼社会貢献室室長の植木力さん(51)が、カンボジアに小学校をつくる運動をしている人から文房具が足りないことを聞き、日本中から集めて送ろうと思ったことがきっかけです。 活動はカンボジアに事務所を持っている日本の財団法人との協力によって進められています。カスタネットは財団法人から各学校の児童数などを聞き、児童の数より多い文房具を集めて、現地へ年1、2回送っています。これまでに約7000セットを送りました。トナーカートリッジ売上額の1%を活動資金に充てています。財団法人は送られた文房具を学校訪問する時に持って行きます。 当初は文房具を送るだけの活動だったのですが、送ったものがちゃんと届いているか植木さんが見に行った時、校舎が壊れそうな学校があり、それをきっかけに学校建設の活動も始めました。 植木さんは将来、カンボジアの子どもたちを教える先生の養成や、卒業生が日本に留学できるよう支援することができたらと考えています。(中2・井口優香) |
その他 | 木材購入にエコルール−積水ハウス |
住宅メーカーの積水ハウス(大阪市北区)は環境破壊を防ぐため、木材を購入する際のガイドラインを2007年4月に策定しました。 環境推進部の佐々木正顕部長(52)によると、積水ハウスは07年2月からの1年間に37・4万立方メートルの木材を使っています。インドネシアではラワンという軽くて使いやすい木材が切られすぎ、オランウータンなどの野生動物の居場所がなくなっています。環境保全を考えながら木材を使うことが企業の社会的責任だと考え、ガイドラインを作ったそうです。 具体的には、国産の木材かどうか、計画的な伐採が行われているかどうか−など10項目について木材を審査します。1項目ごとに点数化し、合計点で四つのランクに分けています。違法伐採の可能性がある木材や、絶滅のおそれがある木材は他の点数が高くても購入しないようにしています。 採点基準はNGOと協力して作りました。世界中にネットワークを持つNGOと提携し、新しい種類の木を導入する際の参考にしたり、木材を納める業者向けの勉強会を開いたりしています。業者からはラワンを使わずにユーカリの木を使用するなどの提案が出てくるなどの効果が出ているそうです。(高1・高田翔太郎) |
「双方にメリット」が大切
早稲田大大学院の松岡俊二教授(53)によると、企業による国際貢献は1990年代後半から本格化しました。きっかけは、日本企業の海外進出によって世界の課題を知る機会が増えたこと、地球温暖化など環境問題の深刻化が進んだからだそうです。
貢献活動には、環境や貧困をテーマにした取り組みが多いそうです。最近では、本業を生かした活動が目立っています。
住友化学はマラリアを防ぐ防虫剤を繊維の中に練りこんだかやを開発しました。タンザニアのかやメーカーに技術を無償で伝えています。かやは洗濯しても5年持ちます。このかやによって40万人の命が救われたとも言われるそうです。
松岡教授は「本業を生かした活動は、他がまねできない質の高い活動です。寄付だけしていたのでは、企業の社会的責任を果たしたとは認められない」と指摘します。そして「支援する企業と、受ける国の双方にメリットがある活動をすることが大切だ」と話します。
ホンダはベトナムにパトロールバイクを送っています。これには、自分たちの技術を伝えることと治安を向上させる二つの良い点があるそうです。(中1・坂本真子)