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放射線
どこでも存在 兵器に医療に

核兵器は放射線によって人体に大きな被害をもたらします。長期間たった後でもがんなどの病気になることがあります。その一方で、私たちの生活に身近な所で、放射線は活用されています。

今回は、放射線をテーマに、人体へ影響を与える仕組みなどについて取材しました。

遺伝情報を持つDNAを傷つけられたことにより被害を受けたのは、広島、長崎の被爆者だけではありません。現在もイラクなどでは劣化ウランの放射線が原因とみられる患者が増えています。

放射線は一方的に悪いわけではありません。がん治療や植物の品種改良など恩恵もあります。しかし、兵器として使った場合の悪影響はとても大きいです。核兵器は決して許せるものではないことを再認識しました。


「物質のもと」から放出

日常生活などで浴びる放射線
(単位ミリシーベルト)
胃のエックス線健診(1回)0.6
東京−ニューヨーク飛行機往復0.2
1人あたりの自然放射線(年間)
(内訳)
宇宙から
大地から
食物から
吸入
2.4

0.39
0.48
0.29
1.26
CTスキャン(1回)6.9
ブラジル・ガラパリの大地(年間)10
広島原爆(爆心地から1km)
=さえぎるものがない場合
約4000〜5000

放射線とはどんなものなのでしょうか。元中学校の先生で、原爆資料館「中高生ピースクラブ」の講師を務める沢村博彦さん(56)に聞きました。

物質は、原子が集まった元素またはその化合物からできています。原子核には安定した形になるため、違う原子核に変化するものがあります。このとき放射線が出ます。

放射線を出す能力を放射能と言い、ウランやトリウム、ラジウムなどの放射線を出す性質を持つ元素を含むものを放射性物質と言います。

私たちの周りにはあらゆるところに放射線があります。大地や食べ物からもわずかですが放射線が出ています。私たちは自然界から年平均2・4ミリシーベルトの放射線を浴びています。一方、エックス線のように人工の放射線もあります。

放射線は、直接外から浴びる場合と、放射線の粒子を体内に取り込んでしまう場合があります。

アルファ線は、外から浴びるだけでは届かないことが多いのですが、体内に取り込んでしまうと、細胞が強い放射線を浴びてしまいます。(中3・西田千紗)


原子爆弾  DNAに傷 今も症状

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放射線の影響で髪の毛を失った少女(原爆資料館提供・菊池俊吉さん撮影)

広島に投下された原子爆弾は爆風、熱線とともに放射線でも大きな被害を出しました。放射線影響研究所(放影研、広島市南区)主席研究員の中村典さん(62)=放射線生物学=によると、原爆の放射線量は、爆心地から1キロ離れたところで自然から受ける放射線の約2000倍、2キロ離れた地点でも100―200倍もあったそうです。

放射線被害には急性症状と長年たった後に出る症状とがあります。

急性症状は、血液など新しい細胞を作り出すことができなくなって白血球が減るため、感染症を引き起こしたりします。髪の毛を失うこともあります。

長年たってから出る症状は、DNAが傷ついた後、切れた部分が完全に修復されないのでがんなどの病気になります。被爆者は、一般の人に比べ白血病になる割合が2倍だそうです。その他のがんについても被爆していない人に比べ高い確率で発病します。

放射線は細胞分裂を盛んに行っている細胞に大きな影響を与えるので、胎内で被爆した人には頭囲が小さくなる原爆小頭症になった人もいます。

放影研は被爆した人たちの死因や血液中の染色体異常を調べています。被爆2世に遺伝的な影響がないか、追跡調査しています。研究結果は、世界で放射線を使う職業の人たちが1年間に浴びる量の上限を決める際の基準にもなっています。(中2・坂田弥優)


劣化ウラン弾  細胞に侵入 毒性出す

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イラク南部バスラの病院で白血病になったわが子を示す母親。おなかは腹水で膨れあがっている(2003年7月、森瀧さん撮影)

原子力発電や核兵器に必要な濃縮ウランを作った後の廃棄物を使う劣化ウラン弾は、人体に大きな影響を与えます。

劣化ウラン弾は、放射性廃棄物の処理方法の一つとして発案されました。劣化ウランは、比重が鉄の2・4倍あり、厚さ10センチほどもある戦車の鉄板も貫いてしまいます。爆発すると約3000―4000度の高熱を出し、ウランの粒子は霧状になって拡散します。一度細胞の中に入ってしまったウランの粒子は放射線を出し続けます。放射線に加え、ウランそのものが持っている化学毒性も作用し、より人体に悪影響が出やすいそうです。

これまで劣化ウラン弾は、湾岸戦争やアフガニスタン侵攻、イラク戦争のほか、ソマリアや旧ユーゴスラビアで使われました。使用が確認されているのは米国と英国、北大西洋条約機構(NATO)軍です。米軍などは劣化ウランと健康被害の関係を公式には否定し続けています。

劣化ウラン弾禁止に取り組むNGO「NO DUヒロシマプロジェクト」共同代表の森瀧春子さん(70)によると、イラクでは白血病を始めとするがん患者が増えているそうです。イラクに駐留した米軍兵士の尿からも劣化ウランが検出されています。

劣化ウラン弾の使用を禁止する条約はありませんが、ベルギーは今年6月、劣化ウラン弾の使用を禁止する法律を発効させました。コスタリカでは国会に提案中です。森瀧さんは「劣化ウラン弾被害を広く知ってもらい、国際世論を高めていくことが禁止条約づくりにとって急務」と話します。(高2・見越正礼)

■医療−がん治療や温泉ケア

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高濃度のラドンを浴びる患者たち(岡山大学病院三朝医療センター案内より)
放射線は医療の現場でも活用されています。温泉も、自然の放射線によって健康に良い影響を与えます。その仕組みを岡山大大学院の山岡聖典教授(53)=放射線健康支援科学=に聞きました。

病気の診断で使う弱いエックスも放射線の一つ。病気の早期発見に役立てています。治療では強い放射線をあててがん細胞をなくすこともできます。弱い放射線はがんや動脈硬化などの生活習慣病を抑えたする可能性があることが明らかにされつつあります。

鳥取県三朝町にある三朝ラドン(放射能)温泉は、ラドンから出る微量の放射線が刺激となって免疫力を高めます。生活習慣病などの症状を和らげるそうです。

放射線によるがん治療は痛みがほとんどありません。咽頭がんであれば、咽頭を切除しないので声を失わずに治療することができます。でも、正常な細胞を傷つけてしまうので、倦怠感や皮膚の異常などの副作用があります。(中2・小坂しおり)

■植物−品種改良 強く長持ち

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放射線による品種改良で黄色(左上)からピンク(右上)オレンジ(左下)白(右下)に変わったオステオスペルマムの花。高崎量子応用研究所が群馬県との共同研究で育成した
放射線は植物の品種改良や食べ物の殺菌などに使われています。国連食料農業機関(FAO)と国際原子力機関(IAEA)の調査では、放射線を使った品種改良は2570種類が確認されています。

 日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所(群馬県)でバイオ応用技術研究ユニット長を務める田中淳さん(48)によると、放射線を使った人工的な品種改良は、1928年に米国で始まりました。

 放射線を植物にあてて突然変異を起こし、遺伝情報を書き換えて子や孫の世代で固定し、色とりどりの花を作ったりします。食品照射といって食品そのもののDNAに放射線をあてて細胞の増殖を止め、殺菌や芽止めもできます。

 日本ではジャガイモ以外への食品照射は禁止されています。安全性を不安視する声もあります。田中さんは「放射線による突然変異は自然に起きることなので、人工的に確率を高めても人体に危険はない。食品照射も世界保健機関(WHO)などが安全だと認めている」と言います。(高2・村重茜)

原子力発電  電力下支え 安全課題

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ウランの核分裂を利用した原子力発電は、国内の発電量の26%を占めます。中国電力(広島市)は島根原子力発電所(松江市)1、2号機を持ち、発電量は全体の約1割です。

原子力発電には、天然ウランを加工したペレットを燃料に使います。燃料棒に入ったペレットに中性子をぶつけて核分裂を起こすと燃料棒が高温になり、原子炉内の水が沸騰して蒸気でタービンを回します。

中国電力広報・環境部門の小川洋副長(53)によると、原子力発電のメリットは火力発電と違い、二酸化炭素を排出しないことです。また、少ない燃料で大きなエネルギーを得られるます。しかし、放射線が漏れた場合、周囲に大きな影響を与える可能性があります。

安全対策としては、燃料を覆う管や原子炉建物など5重の壁を用意し、地震が起きた場合などに備え自動的に運転を止める装置もあります。

原発で使ったウラン燃料は、放射性物質を含んだごみとなります。各電力会社は現在、使用済みの燃料を再利用するプルサーマルに取り組もうとしています。中国電力も島根2号機でプルサーマルを計画しています。

九州大大学院の吉岡斉教授(科学史)によると、プルサーマルのメリットは、核兵器などに使われる恐れがあるプルトニウムの在庫を減らすことです。一方、プルトニウムは毒性が強く、核分裂の制御がウラン燃料に比べて難しいなど、安全面の問題があります。再利用するコストが高いことも課題です。(高2・小林大志、中1・白川梨華)