生きていくのに必要な食べ物を得る。教育を受ける。自分の意見を言う―。これらは子どもに認められている権利です。しかし、働かされて教育を受けなかったり、食べ物を十分に与えられないなどの権利侵害が実際、起きています。
これらの事例があまりない日本では、侵害を身近に感じないかもしれません。でも「子どもだから」という理由で自分の意見を聞いてもらえなかったりすることはあるのではないでしょうか。
身近な事例を通じ、子どもの権利について考えてみました。常識だと思っていたことも、権利の視点で見ると侵害の可能性があることがわかりました。権利を持つためには、子どもたちも義務を負う必要があることを学びました。
日常生活で「これって権利侵害?」と疑問に思う事例について、法律や子どもの権利に詳しい専門家3人に聞きました。 |
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女子の制服はスカート限定。髪形にも細かい規制 |
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小食なのに給食時間が15分。食べきれないと教室に残される |
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校区外へ出る時親の許可が必要、と校則に書いてある |
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学校へ行きたくない。でも、行くべきと決めつけられる |
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親が携帯を持つなと言う |
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高校生なのに門限午後5時 |
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子どもは選挙で投票できない |
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パソコンにフィルタリング。友達のブログが読めない |
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高2・室優志、高1・古川聖良、坂田悠綺、中3・今野麗花、中2・井口優香、中1・坂本真子が担当しました。
子どもの権利 広がりに課題 −広島大大学院 横藤田教授に聞く
広島大大学院社会科学研究科の横藤田誠教授(52)=憲法学=に聞きました。
子どもの権利について話す横藤田教授(左)(撮影・中1坂本真子) |
子どもの権利は、健やかに成長する▽虐待から守られる▽教育を受ける▽自分の考えを持ち意見を言うなど、子どもが安心して暮らすための権利です。大人の権利と比べ「保護される権利」が重視されています。
子どもにも権利があるという考えは19世紀後半、子どもは教育を保障されなければいけないという考えをきっかけに生まれました。中世ヨーロッパでは「子ども」という区切りがなく、大人と同じように働かされたりしていました。区切りができてからも「権利は大人のもの。子どもに権利はない」と認識されていた時代もありました。
国際的に認められたのは1924年、国際連盟で採択された児童の権利に関するジュネーブ宣言です。飢えた児童は食物を与えられなければならないことなど「保護される権利」が認められました。
これに表現や思想の自由が加わり、大人と同じ権利を持っていると言われ始めたのは70年ごろからです。69年、米国の連邦最高裁が子どもの言論の自由を認める判決を出したのがきっかけです。
条約を締結しても権利が守られていない国はたくさんあります。例えばアフリカのシエラレオネなどでは生きるために必要な食料や医療が十分に与えられておらず、健康に成長する権利が侵害されています。他にも途上国で、生活のために子どもが売られる、結婚させられる、働かされるなどの例があります。
日本のような先進国では生きていくための最低限の権利はあまり脅かされません。しかし児童ポルノがインターネットで配信され広まるなど、先進国ならではの問題があります。(高1・坂田悠綺、中2・井口優香)
私の権利を守るために 1.【意思表示】 権利が侵害されていると思ったら、まずは声に出しましょう。 子どもが権利を持っていることを知っていても、「子どもなんだから言うことを聞きなさい」と言う大人もいます。私たちは不満を持っていてもあきらめてしまうことがあるのではないでしょうか。 子どもの権利を知らない大人もいます。まずは伝えることが大切です。(高1・坂田悠綺) 2.【判断力をつける】 今ある校則や家の決まりなどをまず疑い、正しいかどうか判断する力をつけることが必要です。 女子の制服がスカートに限定される例など当たり前だと思っていても権利侵害の可能性があるものもありました。認められた権利を知り判断する力がないと、侵害に気付き、権利を主張することができません。 一方、私たち子どもは権利を主張しても、危険に巻き込まれたときなどは大人に頼らなければいけません。自分でどこまで責任を持てるか考えながら行動する必要があります。(中3・今野麗花) 3.【相談窓口をもっと知らせてほしい】 子どもが権利について相談する窓口を見つけにくいと感じました。学校で知らされる機会もあまりありません。 電話やメールで気軽に相談し、専門的なアドバイスをもらうことができる窓口があることを知れば、子どもは問題を抱え込まなくてすみます。そのためには、授業の中で取り上げたり、学校の掲示板などで宣伝することを義務づけることが必要です。(高1・古川聖良) |
相談窓口
◇子どもの人権110番 フリーダイヤル0120(007)110(平日午前8時半〜午後5時15分)
◇広島弁護士会子どもの悩みごと電話相談 電話090(5262)0874(平日午後4時〜5時)
◇法務省インターネット人権相談 http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken113.html
児童の権利に関する条約。1989年、国連総会で採択された。18歳未満を子どもとし、その権利を守るために必要なことを国際的に定める。現在、米国とソマリア以外の193の国と地域が結んでいる。日本は、94年に批准した。