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子ども兵を救う
僕たちの同世代 戦わせない

世界にはアフリカやアジアを中心に、18歳未満の兵士が約25万人もいるそうです。学校に行く年齢の子どもが戦場に駆り出されます。女性は無理やり結婚させられることもあります。

今回は、元子ども兵が社会に戻るための支援や、子どもが兵士になるのを防ぐための取り組みを取材しました。元子ども兵が出演した映画をつくった監督は、演技を治療として活用しました。また、自立した生活ができるよう、職業訓練をしているNPO法人もあります。

子ども兵を生み出さないようにするには、国際的な活動も必要です。子ども兵を使っている国などに圧力をかけたり、小型武器を禁止する条約をつくるキャンペーンなどには、日本にいる私たちも協力できます。


い ま : 20カ国で25万人確認 −早稲田大大学院 勝間教授に聞く

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武器を手にするコンゴ民主共和国の子ども兵(2003年、GRAM提供)

3年前まで国連児童基金(ユニセフ)に勤務し、アフガニスタンの元子ども兵の社会復帰支援などを担当した早稲田大大学院の勝間靖教授(45)=国際人権=によると、2001年から04年にかけ、ウガンダやアフガニスタンなど少なくとも約20カ国で18歳未満の兵士が約25万人確認されています。

早ければ就学前に兵士になります。戦闘行為だけではなく、武器などの運搬をしたり料理を作ったりします。女の子の場合は、幹部たちと結婚させられることもあるそうです。ネパールの反政府武装組織では、女性も戦闘に参加しています。

勝間先生によると、子どもが兵士になる理由は、誘拐など強制によるもの▽貧しさから食料などを確保するため▽仕返しなど自分の意思によるもの−の三つです。

どの理由で兵士になるかは地域などで異なっています。中央アフリカにあるウガンダでは、反政府武装組織が子どもを誘拐することが多いそうです。山岳地帯にあるネパールでは、土地がやせていて貧しい家庭が多く、家族を減らして食料を確保するため親が行かせることもあるそうです。自分の意思というのは、家族などを殺された仕返しなどのためですが、あまり数は多くないそうです。

勝間先生は「一度兵士となった子ども解放するのは難しく、ならせないことが大切です」と話します。また、そういう政府軍や反政府武装組織に国際的な圧力をかけることが大切だと指摘します。スリランカでは、ユニセフが反政府武装組織に子どもの権利条約に違反していると指摘し、解放に成功した例があります。

子ども兵を解放した後も、人を殺したことなどが、トラウマとして残っているので、カウンセリングをしたり、家族の再会を促します。子ども兵は、兵士としての経験しかなく、教育を受けていない人が多いので、職業訓練など兵士以外の仕事を見つけるための手助けも必要です。(高2・室優志)



働 く : 誘拐・妊娠を越えて −ウガンダの女性兵士 エスタさん

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ミシンを使って研修中のエスタさん(テラ・ルネッサンス提供)

NPO法人テラ・ルネッサンス(京都市)は、ウガンダ北部やコンゴ(旧ザイール)で元子ども兵が社会復帰できるように、洋裁などの職業訓練をしています。ウガンダで支援を受けている元子ども兵にメールでインタビューしました。

アラチ・エスタさんは1986年生まれです。12歳の時、反政武装府組織に誘拐され、17歳まで無理やり兵士にさせられました。食事を作ったり、戦闘や移動中には裸足で重い荷物を何十キロも運ばされたりしました。

また、上官の命令で自分が望んでいない相手と結婚させられ、その子どもを妊娠したことが最もつらかったそうです。子ども兵となった女性はほとんどが大人兵士と結婚させられたそうです。

テラ・ルネッサンスのウガンダ駐在代表の小川真吾さん(34)によると、女性の元子ども兵の場合、0歳から5歳の手のかかる子どもを抱えていることが多いので、自分が教育を受けたり仕事を見つけることより、子育てを優先しなければならず、男性に比べて経済的にもさらに厳しい状況に置かれることが多いそうです。

エスタさんは現在、テラ・ルネッサンスが運営する施設で、ミシンを使った服飾デザインの訓練を受け、ビジネスとして成り立つよう研修を受けています。

エスタさんは兵士だったころ、楽しかった学校生活や両親のことばかりを考えていたそうです。「子どもたちには私が卒業できなかった小学校を卒業して中学校に行ってほしい。そのためにたくさんの服を売りたい」と話します。(中1・坂本真子)



信じる : 映画撮影で心の回復 −仏のソベール監督

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リベリアで映画の撮影中、元子ども兵(左)と話すソベール監督(左から2人目)=2007年、ソベール監督提供

アフリカの子ども兵をテーマに、元子ども兵が出演したフランス映画「ジョニー・マッド・ドッグ」(2008年公開)のジャン・ステファーヌ・ソベール監督(40)にメールで取材しました。ソベール監督は、元子ども兵たちと一緒に暮らしたり、映画撮影を通じて、彼らのトラウマを取り除こうとしたそうです。

映画には、リベリアの元子ども兵15人が出演しています。ソベール監督は撮影をする前に一年間、彼らと首都モンロビアの民家で共同生活をしました。信頼関係を築くため、目を閉じたまま後ろに倒れ、周りの人が受け止めるというゲームをしました。元子ども兵たちは最初、目を閉じることができなかったそうです。一緒に暮らす中で信頼できる仲間だと感じ始め、ゲームができるようになりました。

リベリアでは、1989年から03年まで内戦がありました。多くの子どもたちは戦後、ストリートチルドレンになり、家族もなく、教育も受けていませんでした。

共同生活をしたのは、安心して食べたり寝たりすることができ、薬物への依存をやめるようにするなどの目的もあったそうです。午前中は読み書き、午後は映画に出演するための演技の練習をしていました。

ソベール監督は「映画撮影で元子ども兵に演技をさせることは、トラウマを取り除く効果的な治療法です」と話します。子どもたちが兵士のころは感情をコントロールせずにしていた行動を、演技としてやることで感情を抑えるなどの効果があるそうです。実際に演劇を治療やリハビリの一環として使っている非政府組織(NGO)などからアドバイスを受けました。

映画に出演した15人だけでなく、多くの元子ども兵に教育や食料などの支援をするためのジョニー・マッド・ドッグ基金も設立しました。(高1・坂田悠綺)



広げる : 国際的圧力 賛同の輪

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子ども兵禁止キャンペーンに参加した大阪府立富田林高の生徒たち(2008年11月©Courtesy Human Rights Watch)

非政府組織(NGO)ヒューマン・ライツ・ウオッチ(本部米国、HRW)は、子ども兵の使用を禁止するために、法律づくりのアドバイスや、子ども兵を使う政府軍、反政府武装組織に国際的な圧力をかける活動をしています。

2008年12月、米国議会は、子ども兵を使う国は米国からの軍事支援が受けられなくなる法律を可決しました。東京駐在の土井香苗さん(33)によると、HRWはこの法律をつくるため、3年をかけて、条文の構想をまとめ、議会で調査結果を報告しました。日本でも子ども兵を撮影したビデオを講演会などで流し、米国の議員にあてて手紙を書いてもらうなどの活動に取り組みました。

米国はアフガニスタンやスリランカ、チャドなどに訓練や資金など軍事面での援助をしているので、そういった国々に効果があるそうです。

世界中から赤い手形を集めるキャンペーンを進め、今年2月、国連の事務総長に送りました。約100万個の手形が集まったそうです。

国連が制裁を恐れ、ミャンマーの反政府武装組織は子ども兵の使用をやめました。スリランカの反政府武装組織は子ども兵の数を減らしたこともあったそうです。

土井さんは「日本政府にもできることはある」と言います。正確な数は分かっていませんが、アジアでは現在もミャンマーやスリランカなどに数万人の子ども兵がいます。

日本はこれらの国の政府にどの国よりも多く開発のための資金援助をしているので、子ども兵の使用をやめたら援助を増やす、またはやめるまで援助をしないといったことをそれらの国に主張すれば、大きな圧力になると話していました。(中2・井口優香)



止める : 小型武器ノー協定を

子どもが兵士にさせられる理由の一つは、軽くて扱いやすい小型武器が手に入りやすいためです。

子どもを兵士にさせないための活動に取り組むNGOセーブ・ザ・チルドレン・スウェーデンのヘンリック・ハッグストロムさん(41)によると、ウガンダでは、8歳の子どもがライフルの撃ち方を習っていることもあったそうです。

小型武器の中でも、AKー47(カラシニコフ)というロシア製自動小銃が問題になっています。スイスのジュネーブ高等国際問題研究所によると、AKー47は改造品も含め世界中で1億丁以上製造されたといわれています。壊れにくく、重さ約4キロと子どもでも扱えるほど軽いなどの理由から、多くの国で使われています。

ハッグストロムさんは小型武器について、「今存在している法律では、抜け穴が多く取り締まりは難しいので、国際的な協定が必要だ」と言っています。

小型武器を含む通常兵器の規制ための武器貿易条約を作るため、世界のNGOが協力して「コントロール・アームズ」キャンペーンを行っています。参加しているNPO法人オックスファム・ジャパンによると、日本では、2007年に約3万羽の折り鶴を集め、通常兵器の輸出の8割以上を占める、国連安全保障理事会常任理事国の駐日大使館に渡すなどの活動をしています。(高1・古川聖良、中3・今野麗花)