今年も8月6日が近づきました。平和学習が盛んになる季節です。そんなとき「教材」になりうるホームページ(HP)を、いろんな団体が作っています。今回はその中で9つのサイトを取材しました。
子どもにも分かりやすいようイラストやアニメ、動画などをたくさん使うなどの工夫がありました。「ヒロシマからの発信」「継承」にかける熱い思いがあることも知りました。
そのうえでジュニアライターは、子どもに受け入れやすいサイトとはどんなものかのアイデアを出し合いました。いろんなHPで参考にしてもらえるとうれしいです。
サダコ題材 創作アニメ 原爆資料館は子ども向けHP「キッズ平和ステーション」を作っています。原爆による白血病のため12歳で亡くなった佐々木禎子さんの体験を通じて原爆の恐ろしさを学ぶことができるほか、掲示板で自分の意見を発表することもできます。 「サダコと原爆」コーナーでは、禎子さんの生涯を紹介し、彼女が折った鶴などの写真も見ることができます。創作アニメ「21世紀サダコストーリー」もあり、現代の小学6年生の女の子が「サダコ」と同じような体験をするのをアニメーションで見ることができます。 意見を発表するコーナーは、子どもがテーマをつくる掲示板「『平和』について話そう」と学校やクラス単位で学んだ成果を発信する「平和学習発表ルーム」、「サダコへの手紙」の3つがあります。 このHPと別に、原爆資料館は、「平和データベース」を作っていて、被爆証言ビデオが見られたり、原爆の絵、写真などを調べたりできます。(中2・高木萌子) 原爆資料館の担当者に聞く …感情移入しやすい工夫
「キッズ平和ステーション」を2000年の開設から担当している、原爆資料館啓発担当の菊楽忍さん(50)に、HPに込めた思いなどを聞きました。 「サダコと原爆」など、佐々木禎子さんが構成の柱の一つです。その理由を「小学高学年を対象にしたHPなので、同じ年代で亡くなった禎子さんを通じて、子どもたちに原爆の恐ろしさを知り、深く考えてほしいから」と説明します。 創作アニメ「21世紀サダコストーリー」は、小学6年生の「マイちゃん」が突然「サダコ」と呼ばれ、白血病で死んでしまうのではと感じてしまう物語です。アニメなので感情移入しやすく、禎子さんの無念さがよく分かりました。ただ音声が無いのが、やや物足りませんでした。資料館は、見る人により訴えるための方法として、音声を付けることを考えているそうです。 子どもたちが平和学習で調べたことを発表するコーナーもありますが、「もっと気軽に書き込める所があった方が良い」と、「サダコへの手紙」を作ったと言います。 掲示板「『平和』について話そう」では、「どうして兵器とかをつくるの?」「戦争がおこる原因は、どっちかの国が、先に手を出してしまうことだと思う」などと、子どもの素直な気持ちが表現され、それに対する返事も寄せられています。「まじめに平和について考えているのが伝わってうれしい」そうです。 今後、さらに多くの人に知ってもらうために「修学旅行生にリーフレットを配るなど、地道にPRしたい」と話していました。(高2・串岡理紗)
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手記や絵で悲惨さ訴え 被爆者が中心となった非政府組織(NGO)「ヒロシマ・スピークス・アウト(ヒロシマからの発信)」のHPでは、被爆者76人の手記を読んだり、20人の絵を見たりすることができます。 手記は、原爆養護ホーム「舟入むつみ園」の入所者28人が書いた「紙碑」と、子どもを失った親たち35人が書いた「流灯」、爆心地から北東に約6キロ離れた戸坂地区の住民や軍医の声など13人の証言を集めた「戸坂原爆の記録」の3つがあります。 手記には原爆投下後、皮膚が焼けただれてぶら下がったり、服がぼろぼろになったりした人の行列が続いたなど生々しい体験が書かれています。文章の中の昔の言葉などは分かりやすく解説をして、小学高学年でも理解しやすくなっています。 他には写真などで被害の大きさを伝える「被爆の実相」もあります。 現在は、日本語版と英語版の2種類だけですが、代表の浜井道子さん(53)=広島市佐伯区=は「もっと多くの言語で発信したい。特に核保有国の人に見てもらって核兵器の真実を伝えたい」と話していました。(高1・室優志) |
被爆者284人 肉声で証言 被爆者284人の証言を聞くことができるHPがあります。元長崎放送記者の伊藤明彦さん(71)=東京都=が作成したCD「ヒロシマ ナガサキ 私たちは忘れない」を基にした「被爆者の声」です。 証言者の多くは淡々と語っています。倒壊した建物の下から「助けて」という声が聞こえてきたけれど何もできなかったことや、救護所では水を与えることしかできなかったなどの話があります。当時の情景がありありと浮かんできます。すべて文字で読めるようになっていて、より理解しやすくなっています。 収録されている証言は合計で約8時間40分です。原爆投下の前夜から、広島は8月14日まで、長崎は9月上旬まで時系列で伝えています。 伊藤さんは1968年、「今、被爆者の声を残さないと、被爆体験を語り継ぐことができない」と、証言を集め始めました。CDを自主制作し、図書館などへ寄贈していましたが、若い世代へ広く伝えるため、HPへ掲載するようにしました。(中3・松田竜大) |
写真で「被爆後の授業」 本川小(広島市中区)は、爆心地から西に約350メートルと最も近い位置にある学校です。被爆した校舎の一部を保存し、平和資料館(地上1階・地下1階)にしています。同窓会事務局が運営するHPは、原爆にかんする資料や、校内で被爆後最初に生えたニワウルシの木の物語などを紹介しています。 「校内の資料」コーナーでは、原爆慰霊碑の碑文「安らかに眠って下さい 過ちは 繰返しませぬから」の基となった書を見ることができます。本川小に15年間勤務し、原爆の被災資料を集めた故山崎与三郎さんが寄贈したものです。 「復興へ」のコーナーでは、1950年ごろの校庭で遊ぶ子どもたちや、窓が吹き飛ばされたままの校舎での授業風景の写真が載っています。HPを管理する河野孝哉さん(55)=同市中区=は「被爆から立ち上がる子どもの姿を知ってほしい」と話していました。 この平和資料館のHPは同窓会が運営するものと学校が作っているものと2種類あります。(小6・白川梨華) |
「壁伝言」の充実を図る 爆心地から約460メートル東にある袋町小の平和資料館(広島市中区)は地上2階地下1階の建物です。被爆した校舎を改装して造りました。HPでは、家族や教え子を捜すために校舎の壁にチョークで書かれた伝言や、袋町小の被爆の様子などを紹介しています。 「平和資料館で学ぼう」コーナーでは、伝言が書かれたのは黒板ではなく、原爆によって焼けたため黒くなった壁だと説明しています。藤原卓哉教頭は「家族や友達を心配していた人たちの思いを知ることで、平和への願いを感じてほしい」と話していました。 毎年約2万人が修学旅行などで訪れています。HPは2003年12月に開設されました。事前学習の教材としてより分かりやすくなるよう、07年9月には、藤原教頭が作り替えを担当し、伝言板についての資料を増やしました。 今後は伝言の文字を読めるようにするなど、内容を充実する予定です。(小6・白川梨華) |
Q&Aで放射線を説明 放射線影響研究所(放影研、広島市南区)のHPでは、放射線とは何かや、人体に及ぼす影響などについて、Q&A方式などで紹介しています。高校生が理解できるよう配慮しているそうです。 「放射線ってなんだろう」コーナーは、放射線と放射能の違いや、放射線によって細胞が傷つくことなどを図を使って説明しています。Q&Aコーナーは、見学者から寄せられた質問で、多かったものを取り上げています。原爆で亡くなった人の数や、広島・長崎にはまだ放射能が残っているか、など12の疑問に答えています。 「ハカセ」と「ラドちゃん」という放影研のキャラクターが登場し、図を増やすなど工夫していますが、内容が難しい分、理解するには少し苦労します。1996年のHP開設時から、Q&Aなどを担当している中村典・主任研究員(61)は「小中学生が5分で理解できるような新コーナーも用意したい」と話していました。(高1・室優志) |
連載記事 英語でも紹介 中国新聞ヒロシマ平和メディアセンターのHPは、中国新聞に掲載された核兵器関係のニュースや、これまでの原爆平和報道の連載記事などを日本語と英語で読めます。 連載記事では、平和記念公園の地に被爆前にあった町で被爆死した人の遺影を集めた「遺影は語る」や、劣化ウラン弾の被害者を取材した「知られざるヒバクシャ」などを読むことができます。「ピースミュージアム」では、平和記念公園の中などにある碑を過去の記事と一緒に紹介しています。本をめくるようにページが移動し、読ませる工夫をしています。 英語で記事が読めることについて田城明センター長は「ノーモアヒロシマの願いを海外に発信し、核兵器のない世界の実現につなげたい」と話していました。(高1・土田昂太郎) |
世界の情報 素早く発信 核兵器や原子力発電所などについてタイムリーな情報を発信しているHP「核情報」は、世界中の新聞や雑誌、非政府組織(NGO)などを情報源にしていて、幅広い知識を得ることができます。 10の項目があり、そのうちの「核開発疑惑国」には、北朝鮮の核開発について、2006年の核実験の規模の分析や、北朝鮮の声明を載せた新聞記事などが掲載されています。 管理しているのは核問題に詳しい田窪雅文さん(57)=東京都=です。原水禁の国際会議などで、米国の核実験で被爆した実験場周辺住民たちと出会う中、核関連施設の環境や人体に与える影響を調べるようになったのが開設のきっかけになりました。 「海外の情報など、必要なのに入手しにくい情報を伝えることで、核戦争や核拡散を防ぎたい」と話しています。(中3・松田竜大) |
資料写真や動画が充実 「広島に落とされた原子爆弾について調べよう」は、大阪府の小学校で教頭をしている足立節男さん(51)が、小中学生の調べ学習の参考として作ったHPです。学校教育用のサイトから集めた資料写真や動画もあり、原爆や戦争の悲惨さを知ることができます。 「投下前の広島」「広島投下理由と原爆」など30以上の項目に分かれています。各項目とも原爆資料館のHPなどにリンクして、さらに詳しく学べます。 「歴史的映像」コーナーでは、独立行政法人情報処理推進機構の「教育用画像素材集」というHPにある原爆のきのこ雲などの動画を見ることができます。 文字ばかりでなく、写真や動画をたくさん使うことで、飽きることなく、見続けることができると感じました。(高1・土田昂太郎) |
魅力アップ 私たちのアイデア …クイズ問題を公募/絵やメッセージを紹介
子どもたちがより興味を持ち、分かりやすくなるよう工夫している平和関連のホームページ(HP)を探してみました。
「挑戦してみよう」という気にさせるには、クイズが有効な方法です。立命館大学国際平和ミュージアム(京都市)のHPにある「キッズページ」は、第二次世界大戦中の生活の様子を伝える資料やベトナム戦争で使われた爆弾などをクイズ形式で紹介しています。写真も大きく、分かりやすい内容になっています。
ミュージアムに取材したところ、このクイズは大人が出題しているそうですが、問題を子どもが作るのも良い方法だと思いました。同世代が作った問題だと、答える子どもも「自分ももっと知らなければ」という気持ちになります。問題を公募すると、作ろうとする子どもも勉強になるのではないでしょうか。
平和について人の意見や感想を読み、自分自身も考えてみたりそれを文章にしたりするのもいい方法だと思います。「ひめゆり平和祈念資料館」(沖縄県)のように、来館者の直筆のメッセージを載せると、より強いメッセージを感じることができます。
国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館でも、来訪者が描いた平和へのメッセージを込めた絵を紹介しています。このほか感想を録画したり、寄せられた平和学習の成果などをHP上で動画で見られるようにしても良いと思います。(中3・岩田皆子、中1・坂田弥優)