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限りある水
   守る取り組み、広めよう。

ひろしま国を舞台に「平和に生きる」ということを考える中、ジュニアライターから「環境」をテーマにしたいとの声が上がりました。人間が争わずに生きていくことはもちろんですが、動植物とも仲良く生活したいという思いがあります。

ふだんの会話の中で「いつもの年より暑いよね」「異常気象でしょう」と話すことはないですか。私たちが便利さを追い求める一方で、自然が悲鳴を上げているという指摘があります。そして核実験や戦争は最大の環境破壊でもあります。平和と環境は無関係ではないのです。

広島大大学院総合科学研究科の開發(かいほつ)一郎教授(56)(水環境科学)は環境問題は「水」「大気」「地表面」の3つに分類できると言います。そしてそれぞれはつながっているのです。まずその中の「水」について、リポートします。

 

 現代の環境問題 広島大・開發教授に聞く 

 
地球の環境問題全般について説明する開發教授(撮影・中3土田昴太郎)

 自然環境がどんどん悪くなっています。どんな問題がありますか。

 環境問題は主に「水」「大気」「地表面」の3つに分類でき、それぞれ各国で研究や改善策がされています。

ここで考える必要があるのは、環境が悪くなっているのは人間の生活が便利になっているのとつながっているということです。自然が豊かだった17世紀に戻れば不便でもいいのかというと、そうではないかもしれませんね。一人一人がそのバランスを考えることも大事です。

 「水」問題とは。

 水は限られた資源で地球の上で循環しています。産業革命の後、経済が発展するにつれて汚れるようになりました。自分たちが汚した水は動植物などを通じていずれ自分に戻ってくると自覚する必要があります。

 「大気」と「地表面」は。

 大気の問題には、排ガスなどによる汚染や地球を取り巻くオゾン層の破壊、それに伴う温暖化や気候変動があります。地表面では、森林伐採による乾燥や土壌の性質変化、開発による地形の変化などがあります。

 これらの問題はお互いに影響し合っています。例えば森林伐採によって生態系や土壌の性質が変わることで、水を浄化する機能が衰えるなど、環境問題は一つの分野にとどまらないのです。

 環境問題にどう取り組めばよいですか。

 まずはどのような環境を目指すかという目標を決める。そして環境保全のためには人間中心に便利さを追求するだけでなく、ほかの動植物とどのように共存していくかを考えることです。

(高3・本川裕太郎)
 
 
 水の汚染 −地球環境問題型と公害型に大別
 

地球規模で起きている水の汚染について、総合地球環境学研究所(京都)の谷口真人准教授(48)=地下水学=に聞きました。

水の汚染は大きく、公害型と地球環境問題型に分けられます。公害型は日本では水俣病などの例があり、狭い範囲で起こるため原因がはっきりしています。海外では中国で2005年に化学工場が爆発し、アムール川支流に汚染物質が流れた事故や、米国の企業がニューヨーク州を流れるハドソン川に有害物質を不法廃棄し、水が汚染された事件もありました。

一方、地球環境問題型には、生活排水が川に流れ込んだり、農業で使った化学肥料が地下水を汚染したりする例があります。広範囲にわたってじわじわと汚染濃度が濃くなるため、気付くまでに時間がかかります。

また中国やインドなどでは人口増加に伴って生活排水が増え、食糧需要を満たすために農業で農薬や化学肥料が使われて水が汚染されるという、原因がいくつか重なったケースもあります。

工業廃水や農薬など、人間の活動により汚染は世界各地で深刻な問題になっているのです。

人間の健康被害だけでなく、内分泌かく乱物質(環境ホルモン)による魚のメス化など、生物への影響も指摘されていますが、因果関係が分からない例が多いことも問題です。「解明が遅れることで対応も遅れ、被害が広がってしまう可能性がある」と谷口准教授は危機感を持っていました。

水や大気は地球上を循環しているので、日本に住む私たちが水を汚すことで世界の他の国の人たちにも影響が出ます。自分勝手なごみの捨て方などはやめ、地球全体のことや、地域の環境問題を積極的に理解する事が大切と話してくれました。(中1・高木萌子)

 

 川を学ぶ −米の児童 サケ育て放流


水保全の勉強をしている米国シアトルのドゥンラップ小学校にメールを通じて取材しました。地域で捕れるサケを通して、川の大切さなどを学んでいます。

5年生が毎年サケを卵から育て、川に放流しています。校内の水槽で育てることでその生態を知り、サケを放流する川への関心を高めてもらおうと始まりました。

児童たちは毎日サケの世話をしながら、川や湖の水質を調べ、放流する場所を決めます。現地調査をする中で、川の汚れ具合やそこにすむ生物についても学ぶことができます。

生徒たちは2004年には川について学んだことから自分たちで提言をつくり、市議たちに披露しました。新聞広告やタウンミーティングで訴えるなど、地域住民にも環境に関心を持ってもらえるように努力しようと話し合いました。

5年生を担任するジョイス・ムラカミ先生は「自分たちの生活が身近な環境にどのように影響しているのか、学ぶいい機会」と話しました。(高3・新山京子)


近くの川で水質などを勉強するドゥンラップ小の児童たち(ドゥンラップ小提供)
 

 人工干潟 −浄化機能の回復図る


瀬戸内海の環境に詳しい広島工業大の上嶋英機教授(63)=自然環境再生学=に広島市佐伯区の八幡川河口にある人工干潟を案内してもらいました。

天然の干潟があったころは、水が少し汚れても生物が餌として食べるなどして有機物が分解され、浄化する機能がありました。しかし87年からの埋め立て工事によって貝が減り、それを餌にする鳥が訪れなくなったことでその機能が低下したのです。約24ヘクタールの人工干潟は生き物が活動できる場所を確保しようと広島県が90年に造りました。

今、徐々にカニやアサリなどの生物が戻ってきています。でも、生物が完全に戻るには長い時間が必要です。「自然のものと同じ環境をつくり、継続するには努力が必要」と上嶋教授は言います。(中3・土田昂太郎)


人工干潟に立ち、一度壊れた自然が戻るのには時間がかかると話す上嶋教授(右)(撮影・中3見越正礼)
 

 廃油燃料化 −生活排水減少へ一役


BDFを作る装置の前で仕組みを話す保田理事長(左)(撮影・中2松田竜大)

水汚染の原因の一つは生活排水です。家庭から出る使用済み油を回収し、耕運機などの燃料になるバイオディーゼル燃料(BDF)を作っている北広島町大朝の特定非営利活動法人(NPO法人)「INE OASA(い〜ね・おおあさ)」を訪れました。

保田哲博理事長(69)は他県で取り組みが始まっていたBDFを作る「菜の花プロジェクト」を知り、2000年、住民と一緒に作り始めました。栽培した菜の花を絞った油を料理に使い、その後に精製してBDFを作るのです。これを利用したバスも運行しています。

今まで水に流していた廃食油をリサイクルすることで水汚染を防ぎます。菜の花の栽培を手伝っている大朝小五年の白砂建多朗くん(11)は「環境に良いことができることはうれしい。ごみを減らそうと気をつけるようになった」と言います。

保田さんは「BDFを作ることによって、大朝の人々の環境への意識が高くなった」と話しました。(高3・新山京子)



BDFの作り方



 

 川の水質改善 −住民の意識改革へ

芦田川の汚れ具合を調べる参加者(撮影・高3本川裕太郎)

中国地方の一級河川の中で、34年間も水質が一番悪い福山市の芦田川についての取り組みを取材しました。ここでは汚れの原因の7割が生活排水だと言われています。10月28日、住民や国、市などでつくる芦田川環境マネジメントセンター(AEMC)の水質調査に同行しました。

子どもから大人まで31人が、芦田川と支流の計17地点で汚れの目安である化学的酸素要求量(COD)などを薬剤を使って調べました。良い結果が出たところとそうでないところそれぞれありました。

AEMCの田中宏行会長(48)は「ようやく汚いという認識が住民に広まってきた。でもまだまだ活動を続けていく必要がある」と言います。

今月は特に汚れがひどい地域の計170世帯に「食べ残しを流さない」など5項目を守ることを呼び掛け、川がどう変化するのかを調べる予定です。(中3・小林大志)