8月6日を迎えました。原子爆弾の犠牲者を悼み、平和を祈る人々が国内外から広島に集まる日です。人類史上初めての悲劇を体験した日から62年。その日にどんな紙面を作るのか、ジュニアライターたちは議論を重ねました。
そして「平和博物館」を提案することにしました。
原爆について五感で学べるコーナーや世界の紛争などが分かる映像システムなど、原点の学習から、自分たちに何ができるかまで、子どもが参加しやすい内容を考えました。これまで取材してきた13号の積み重ねを生かしました。
立命館大が世界で初めて大学として作った国際平和ミュージアムのほか、原爆資料館、国立広島原爆死没者追悼平和祈念館も見学しました。
次世代が考えた次世代のための博物館です。
私たちが提案する平和博物館では、身体も使って子どもも分かりやすく歴史を学び、未来を考えることができます。
場所は移転が決まっている広島市中区の広島市民球場跡地がベストだと思います。ここに建設されることによって、原爆資料館から慰霊碑、原爆ドームなどが平和学習の一つの帯で結ばれるからです。この博物館は原爆だけにとらわれない未来志向のものですが、ここで興味を持てば、原爆資料館などに行ってさらに勉強するという流れも生まれると思います。
建設資金は広島市民や被爆者、そしてヒロシマを訪れる国内外の人たちに寄付を募ります。
博物館の内容は、最新の資料や残酷な写真をただ展示すればいいというものではありません。何を学び、何をしていけばいいのか自然と考えさせられるような内容にしたいと思いました。
これまでは「怖いのなんてみたくない」と原爆や世界の人々の苦しみから目をそむけていた人も、ここを見学し、体験し、そして出口を通るときには、自分にできることからやってみようという前向きな気持ちになってもらいたいです。(高3・新山京子)
ワークショップや読み聞かせ
絵本の読み聞かせをしている広島市こども図書館のライブラリー・サポーターズ。中高生の「お兄さん、お姉さん」が読んでくれるので、子どもたちも、じっと聞き入っています |
平和を楽しみながら学べるワークショップと、絵本の読み聞かせなどをする「教育」コーナーを作ります。
「ひろしま国」11号で紹介した神戸大大学院のロニー・アレキサンダー教授たちのワークショップが体験できます。ゲームを通じて平和とは何かを議論したり、物語を考えたりする経験は、平和への意識を高めるきっかけになると思います。
一方、そんな新しい平和教育を考える研究室も作ります。世界中の事例を集め、モデル授業を考えます。そして実験的にここでワークショップをやってみるのです。修学旅行生も受けられるようにすると、広島の人気が出るでしょう。
本のコーナーでは、平和や原爆をテーマにした絵本の読み聞かせ、貸し出しをします。地雷や環境など世界の問題について、小さいころから関心を高めてもらうことを目指します。
本は被爆者や広島の人から寄付してもらいます。読み聞かせは中学、高校生のボランティアを募集します。年齢が近いので、子どもが共感しながら聞くことができると思うからです。(高1・吉岡逸登、中1・今野麗花)
活動第一歩へ 団体を紹介
こんな流れで、世界中の平和活動団体から自分の希望にあうものを検索します(撮影・高1吉岡逸登) |
平和活動にかかわりたいと考えるようになった人のために、世界の非政府組織(NGO)などの市民団体を紹介するコーナーを設置し、活動の参加を促します。
世界中の市民団体とネットワークで結び、データベース化します。タッチパネル式の世界地図から、活動したい地域を選択し、自分の年齢、得意分野、語学力、活動可能期間などの必要なデータを入力すると、マッチした団体が表示されます。
活動の様子や日程などの最新情報、代表者のメッセージが動画、写真とともに紹介されます。また、これまでの利用者がつけた団体への評価も表示し、来場者の判断材料にしてもらいます。
その場でテレビ電話を使って相手と直接やりとりができるようにすると、より詳しい情報を知ることができます。(高1・西田成)
提案の様子です
ピースライター養成
平和関連のニュースを発信する「ピースライター」講座をつくり、若手を養成します。
対象は20歳以下で、日本語ができれば、外国人も受けられます。講師には、地雷撤去や難民支援などの活動をする市民団体、国連職員、第一線で活躍する記者や写真家を招きます。連携する世界の平和ミュージアムの職員が、紛争やその歴史についても教えます。
まずは記事の書き方、写真撮影の基礎を学び、広島、長崎、沖縄を研修で訪問します。被爆者や戦争体験者、平和活動に取り組んでいる人を取材し、意識を高めます。
一年間の講座の最後は、自分でテーマを決めて取材し、記事を書きます。冊子にまとめて博物館で公開するほか、全国の学校にも配ります。
受講生の中から、講師と博物館が優秀者を選び、その後の取材活動に資金援助したり、雑誌などに記事を発表できるよう後押しします。(中2・坂田悠綺)
平和文化祭を開催
平和文化を発信する拠点として、ステージを設置します。ふだんの発表のほか年1回は世界中の音楽や舞台、絵画などを集めた「国際平和文化祭」を開催します。
提携する国内外の平和ミュージアムから推薦を受けた人を招待し、「音楽・舞台」「絵画・文学」「映画・アニメ」の3部門に分けて、作品の上演や上映、展示を約1週間します。その様子はインターネットを通じて世界中から見ることができます。
発表者同士や来場者が気軽に意見交換できるシンポジウムも開きます。ジャンルや国境を超えた連携が生まれれば、芸術の世界でも大きな力になると考えます。
また、広島の文化発信拠点としても定期的に、小中学生や高校生による発表会を開きます。3部門に分け、来場者を含む審査員が審査します。各部門ごとに1年で最も高い評価を受けた団体が国際平和文化祭に出場できます。広島の若者に大きな刺激になると思います。(高3・菅近隆)
「平和博物館賞」贈呈
世界中で行われている平和活動や、平和実現のためのアイデアに毎年、「平和博物館賞」を贈ります。
活動団体や個人に贈る「活動賞」、アイデアに贈る「提言賞」の2部門です。世界中からエントリーを募り、博物館の専門家や第一線の活動家が審査します。ノーベル賞のような権威づけができればいいと思います。
「活動賞」は貢献度のほか、市民の関心をどれくらい呼び起こしたかなども審査のポイントになります。「提言賞」ではアイデア実現までの過程がきちんと計画されているかもチェックします。
両部門とも、受賞者は1年間活動資金を援助され、インターネットなどを通じて広く紹介されます。また「提言賞」では、計画を実行するために、博物館の一室を事務所として無料で貸し出します。(高3・田辺春奈)
世界知る「プラネタリウム」
巨大なスクリーンに映像が流れ、ダイナミックに学ぶことができます |
世界で起きている紛争や貧困などの問題、それに関係する国の情報などが分かる、映像を使った部屋を作ります。
プラネタリウムのような大きな部屋の壁と天井に、巨大なスクリーンがあります。世界地図が書かれているパネルがあり、1つの国に触れると、天井のスクリーンに、その国で起きている紛争、貧困などの現状と、ここに来るまでの歴史が映像で流れます。例えばイラクを押すと、そこに派兵した国などがすべて色で表示されるなど、関係する国の情報も盛り込みます。字を多くすると難しくなるので、できるだけ映像で分かるように工夫します。
その国の住民のインタビュー映像も見られます。どれだけ困っているかを生の声で聞くことができます。
また、どの国がどれだけ軍事費を持っているか、そのお金があれば、世界中で飢えている人を何人助けることができるかなどもクイズ形式で学ぶことができます。(中3・土田昴太郎)
各国の博物館と連携
国内外の「平和ミュージアム」との連携コーナーを作ります。それぞれの職員に展示物の写真を撮り、説明文を書いてもらいます。広島に来れば、世界中の平和ミュージアムの情報を得ることができるようになります。
仕掛けとしては、各ミュージアムに仮想の「入場」をします。特殊なメガネを掛けると、自分を中心に館内の映像が見え、移動もできるのです。見たい展示物はクリックすると拡大され、説明が読めます。
もっとも、そこを訪れて本物を見てもらうことが一番いいので「行ってみたい」と思わせる内容にすることが大事です。
交流イベントもやります。例えばドイツやベトナムなどの博物館と、毎月テレビ会議をする日を設け、アウシュビッツ強制収容所や枯れ葉剤などについての体験を聞く企画をするのです。(小6・小坂しおり)
爆風や熱戦を追体験
被爆瓦になるまでどれほどの熱がかかったのだろう。バーナーで焼かれるかわらを見つめる児童 |
原爆の被害を五感で学ぶコーナーです。被爆直後に広島で実際に起こった現象3つをリアルに感じることができます。
1つ目は、とてつもない爆風。原爆投下時の最大風速と同じ風を人工的に起こす装置を造ります。その前に窓ガラスとコンクリートの壁を固定して実験します。ガラス片が刺さった硬い壁は爆風の威力を物語ります。
2つ目は、強烈な熱線。溶接用のバーナーで瓦の表面を焼き「被爆瓦」が作られた状態を再現します。瓦全面を泡状にするには2500度で約3分かかります。人間が浴びたらどうなるだろう。想像を助けます。
3つ目は、原爆が落ちた後に降った「黒い雨」。放射能を含むこの雨のバーチャル体験ルームです。雨具を用意し部屋に入ると、正面のスクリーンの中で黒い雨が降り出します。同時に天井から少し粘り気のある水が落ちて雨具を濡らします。本物と同じ雰囲気を出すのです。不気味な「黒い雨」を全身で感じ、被爆者たちの恐怖を想像します。(中3・見越正礼)
「被爆瓦」再現の様子です
「復興」トンネル
広島の復興の歴史を学べる「タイムトンネル」を造ります。トンネルの中に、現在までの広島市民の姿を映像を交えて再現するのです。
焼け野原となった広島の地面をトロッコに乗って進んで行くと、がれきを退けてバラックを建てている人たちの様子が人形で再現されています。校門をくぐると青空教室で音声による授業を受けることもできます。
トンネルを曲がるとそこでは被爆翌年の「平和復興市民大会」(現在の平和記念式典)が再現されています。スピーカーからは活気にあふれた参加者の会話が聞こえます。復興を支えてきた人々の様子を身近に感じ、当時の人々の気持ちや復興にかける思いが伝わってきます。(高2・岡田莉佳子、中2・岩田皆子)
「バーチャル被爆体験」提案の様子です |
バーチャル被爆体験
「バーチャル被爆体験」コーナーでは、3Dメガネをかけてスクリーンに向き合うと、被爆直後の広島にいたかのような映像が始まります。
「救護所で妹をみとった中学生」「家族を捜して焼け跡をさまよった小学生」など、具体的なストーリーを選び、その主人公になります。修学旅行生など団体は、みんなが一緒に見ることもできます。
物語は、フィクションでもノンフィクションでも構いません。オーディションで選ばれた人たちが俳優となり撮影します。ビデオカメラは常に主人公の目線です。
自分中心のストーリーを見ることで、悲しみやつらさなどをより身近に感じることができます。(中3・川本千夏)
平和データベース
平和博物館のホームページ(HP)から、「平和」に関する情報を調べられるようにします。勉強や研究に役立つ3つの機能があります。
まず、原爆に関する映像や新聞記事、書籍を検索できます。だれでも無料で見られるようにするため、新聞社などに提供を呼び掛けます。
次に、ネットワーク機能です。被爆者、原爆について詳しい専門家や記者などの連絡先を公開します。学校の文化祭などで講演会を企画するときなどに便利です。
最後に被爆建物や慰霊碑などを実際に訪れたい人向けのナビゲーター機能です。目的地の詳しい住所や説明だけではなく、そこに関係がある他の場所も表示します。携帯電話からも利用できるので、カーナビのように目的地までの行き方を知ることができ、周辺の史跡や碑をめぐる計画をたてられます。(高2・多賀谷祥子)
「平和博物館」を提案する参考として、京都市北区にある立命館大の国際平和ミュージアムを見学しました。
入るとまず、写真を交えたアニメーションが戦争に向かっていった当時の情勢を分かりやすく伝えていました。静かな館内にオルゴールがゆっくりと響いています。画面を見つめていると、まるでその時代を生きた主人公であるかのように感じ、来館者の心は引き込まれていきます。
ここの展示の特徴は「おや、なんだろう」と興味をそそる工夫がたくさんあることです。それは「自ら考え、解決の方法を見いだしてほしい」というミュージアムの意図があります。
例えば「これは花瓶かな?」と書かれた陶器の展示。実は金属不足のために造られた手榴弾だったのです。パレスチナ人難民キャンプで暮らした少女が射殺されるまで愛用していた目覚まし時計の側には「この時計は何を見たのでしょう」と書かれています。考えるきっかけを与えています。
子どもにも理解しやすいよう短い文章の説明板や、当時の映像や写真を交えたビデオを座ってみることができるコーナーも「いいなあ」と感じました。(高3・中重彩)
平和への思いを話す安斎館長(撮影・小6小坂しおり) |
安斎育郎館長に聞く
立命館大国際平和ミュージアムの安斎育郎館長に話を聞きました。
原子力工学が専門で、放射線について学ぶうちに、原子爆弾などの核兵器が使われてはいけないと考え、核軍縮についても研究を始めました。1995年から館長です。
「平和」について、日本人の多くは「戦争がない状態」と考えているけれど、「すべての人々が暴力に左右されず、自分の持つ能力を十分に発揮し、豊かに花開かせられる世界」だと主張します。
そういう平和な社会をつくるためにはさまざまな暴力を知り、その原因を追及し、どうすれば取り除けるか、一人一人が何ができるかを考え実践することが必要です。
そのためにもミュージアムに足を運んでもらい、過去そして現在の世の中の問題を知ってもらいたいと言います。また「事実だからといって何でも展示していいわけではない。人間性不信に陥らせてはいけない。室内を明るくするなどの工夫もしている。ミュージアムを出たときに自分たちには何ができるかを考えるようにしてもらいたい」と力を込めました。
自慢の手品を使ってこう訴えました。「見える部分だけで、物事の全体像をつかんではいけない。見えない部分に何があるのか、考えるべきだ」(高3・本川裕太郎)