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「8・6」は世界共通
 〜地球を平和色に染めよう〜

8月6日―。62年前、広島に人類史上初めて原子爆弾が投下されたこの日は、毎年多くの人がこの地を訪れ、平和を祈ります。そして同じとき、海外でも平和の催しが開かれています。

デンマークやドイツ、パキスタン、モンゴル、米国、カナダ…。もし平和を祈る心に色がついていたなら、地球はこの日一つの色に染まっているのかもしれません。

広島で開かれる平和記念式典の正式名称は「広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式」です。昨年は約4万5000人が、参列しました。

「この式典をもっと若者が参加したくなるものにするには」「各国の人たちと連携するには」。海外の平和行事については非政府組織(NGO)などを通じて10カ国14団体に内容などを聞きました。それら参考に、ジュニアライターたちで議論した、新たな試みを提案します。


8時15分、1分間黙とう −平和記念式典とは−


平和記念式典は、1975年から現在の名称になりました。平和を祈る式典としては、被爆1周年の46年8月6日の前日、「平和復興市民大会」広島護国神社跡(現広島市民球場近く=広島市中区)で開かれたのがはじめです。

平和記念式典を主催している広島市によると翌47年、経済界などから市長に開催の要請があり、市が深くかかわるようになりました。このときの名前は「平和祭」。いまの名称になるまで何度も変わりました。

昨年の式典を振り返ると―。午前8時に開式して、原爆死没者名簿の奉納があり、被爆者代表たちによる献花などの後、8時15分から平和の鐘にあわせて1分間の黙とう。市長による平和宣言や、広島市内の小学6年生のこども代表2人による「平和への誓い」、首相あいさつなどがありました。45分間でした。

子どもによる「平和への誓い」は被爆50周年の95年に始まりました。文章は作文審査で選ばれた広島市内の小学6年生20人が原爆資料館(中区)での学習などをふまえて作っています。

参列者は約4万5000人。70年ごろからだいたい4万から5万人台で推移しています。市によると外国人参加者は1100人以上と推計されています。(中2・岩田皆子)

 
記念式典 提案します

各国の若者が魅力を感じる平和記念式典にしたい―。ジュニアライターはそう願い、考えました。5つの案を紹介します。(高3・本川裕太郎)

それぞれの提案の様子を動画で見ることができます。

 ■平和への誓い 〜世界の若者と考える

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こんな流れで、世界の案を取り入れます(撮影・高2岡田莉佳子)

式典で子どもが読み上げる「平和への誓い」は今、広島市内の子どもだけで作っています。これをネットを通じて世界の若者と一緒に考えます。

まず専用のホームページ(HP)をつくり、だれでも文案を投稿できるようにします。難民キャンプなど、アクセスしにくい地域では、駐在する非政府組織(NGO)に意見を集めて書き込んでもらうといいでしょう。

期間を区切り、ネット上で投票をします。その上位になった作品をもとに、広島の子どもを中心にした制作委員会が一つにまとめます。たとえば、貧困問題について書いたものがあれば、それについて深く調べたうえで、若者が連携して何ができるのかを「平和への誓い」に取り入れるのです。このようにすれば世界の意見を反映した宣言を発信できます。

 
 ■式典HP中継 〜市長会議通じてPR

HPで式典の模様を中継します。このHPのURLを平和市長会議に加盟する世界1650以上の都市に、会議から知らせてもらいます。そしてそれぞれの市内の学校で子どもたちに見てもらうのです。

各市にそれぞれ50の学校があり、100人ずつ生徒がいると仮定すると、800万人を超す子どもが式典を目にすることになります。英語の通訳をつけるなどして、理解を深めてもらう工夫をします。平和を祈る人の輪が大きく広がります。またHP上で感想を聞くアンケートに答えてもらい、翌年の式典に生かします。


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URLは平和市長会議を通じて加盟都市にある学校に連絡します(撮影・中3見越正礼)
 
 ■歩行者天国にブース 〜活動を紹介 参加促す

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平和大通りをブースでいっぱいにします(撮影・中3見越正礼)

平和記念公園前の平和大通りを歩行者天国にします。そして国内外の各種団体がブースを設けます。平和関連のNGOが活動報告をしたり、小学生が平和学習の成果を発表したりするのもいいでしょう。難しいことだけではなく、気軽な展示もいいかもしれません。いろんな形で平和への思いを発信するブースにするのです。

ここで、これまで平和活動に興味がなかった人に、自分にあったやり方を見つけて始めるきっかけにしてほしいと思います。また、ブースを出す団体がお互いの活動について情報交換することで連携が生まれます。

大通り中央の特設ステージでは、市長と若者が気軽に意見を交わす公開座談会や、ピース・コンサートなどをします。

 
 ■折り鶴モザイク 〜完成に各国参加必要

式典を彩るアートの提案です。大人を含む世界中の人に平和をテーマにした絵を公募して、芸術家たちが最優秀を一つ選びます。その作品を白黒で拡大して世界の国の数だけ分割し、色を指定して各国に送ります。その国の子どもが折った鶴を一つのピースとして、巨大なモザイク画をつくるのです。

それを8月6日に各国の代表が持ち寄って合わせ、「完成」させます。式典に不参加の国があれば絵は完成しません。空いた部分は、貧困や戦争などの理由で参加できない国があることを意味します。作品を本当の意味で完成させるために、どうしたらいいのか、それぞれの国が考えるきっかけになります。


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折り鶴を一つのピースに、例えばこんな絵を完成させていきます(撮影・高2岡田莉佳子)
 
 ■テレビ番組 〜継承の証しを伝える

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若者がちゃんと継承している姿をテレビ番組で高齢化した被爆者に伝えます(撮影・中3見越正礼)

式典に参加した若者の取り組みやインタビューをまとめたテレビ番組を作ります。たとえば平和を発信するブースを出した若者に1年間密着取材してカメラを回したり、式典に参加した若者に路上インタビューしたりします。

なぜやるのかというと、暑さなどの理由で参加できない高齢化した被爆者の方たちに、平和を願う心が若い世代にきちんと受け継がれていることを伝えたいからです。また、海外で放送すれば、自分も参加してみたいと思う若者が少しずつ増えることでしょう。

 

    
 
 音楽・踊り・灯籠流し… 世界の8・6行事

各国でも8月6日を中心にさまざまなイベントが開かれています。今回私たちは情報を得た約40の団体などに取材を打診しました。実際にはその何十倍もの平和イベントが開かれていることでしょう。そしてそのうち14団体に内容を聞くことができました。折り鶴を使った芸術展(ドイツ・フュルト)や平和コンサート(オーストラリア・メルボルン)などが印象的でした。

広島市の平和記念式典をよりよいものにするためのアイデアを聞くと、「音楽や踊りもふんだんに取り入れる」(米国・ロチェスター)、「同時に世界平和会議を開催」(モンゴル・ウランバートル)、「国際的なアートまたはスピーチ大会を開き、勝者を招待する」(パキスタン・カシミール)などがありました。

世界の人々の平和を願う気持ちは私たちと同じなのです。もっと世界であるこれらの行事と連携することができるのではないかと考えました。(高3・新山京子)


 【欧州(旧ソ連含む)】

 ●アスコー(デンマーク)(1)市民団体・宗教団体(2)8月6日(3)シンポジウム(4)2005年から毎年

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広島平和祈念碑(左端)前で行われる独フュルト市のセレモニー(2005年)

 ●フュルト(ドイツ)(1)地方自治体(2)8月6日(3)世界各国から集めている平和メッセージを同市の広島平和祈念碑前に飾る(4)86年から毎年

 ●サマルカンド(ウズベキスタン)(1)NGO(2)8月上旬(3)写真パネル展示・折り鶴ワークショップ・講演(4)86年からほぼ毎年

 【アジア】 

 ●ダッカなど3カ所(バングラデシュ)(1)NPO法人(2)8月6日(3)写真パネル展示・ビデオ上映・シンポジウムなど(4)01年から毎年

 ●イスラマバード(パキスタン)(1)市民団体(2)8月6日(3)ポスターの展示・ビデオ上映・折り鶴作りなどをして黙とう(4)02年から毎年

 ●カシミール(パキスタン)(1)NGO(2)8月6日(3)小学生から高校生を集めて黙とう・詩の朗読・折り鶴作り(4)昨年から

 ●ウランバートル(モンゴル)(1)芸術学校(2)8月6日(3)広島の原爆被害を伝える写真パネル展示と原爆についての講演(4)97年からほぼ毎年

 【大洋州】 

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ニュージーランド・ウェリントンの灯籠(とうろう)流し(2006年)

 ●ウェリントン(ニュージーランド)(1)市民団体(2)8月6日付近の休日(3)灯籠流し・写真パネル展示・署名活動など(4)97年から毎年

 ●クライストチャーチ(ニュージーランド)(1)市民団体(2)8月5日から12日までの「平和週間」の前半(3)灯籠(とうろう)流し・平和行進・詩の朗読・黙とう・歌など(4)74年から毎年

 ●メルボルン(オーストラリア)(1)NPO(2)8月6日付近の休日(3)平和コンサート・被爆者のメッセージの朗読など(4)05年から毎年

 【北米】

 ●ミネアポリス(米国)(1)市民団体(2)8月6日(3)広島市長からのメッセージ・黙とう・折り鶴の飾り付けなどの式典と平和コンサートなど(4)85年から毎年

 ●北マリアナ諸島テニアン島(米自治領)(1)地方自治体(2)8月6日と8月9日に交互開催(今年は6日)(3)故・長崎前市長の特別記念式典・モニュメント(4)03年から毎年

 ●ロチェスター(米国)(1)市民団体(2)8月6日(雨天は8月9日)(3)同市長スピーチ・故・長崎前市長についての報告・灯籠流しなど(4)85年から毎年

 ●ハリファクス(カナダ)(1)市民団体(2)8月6日(3)合唱・黙とう・演劇・パネル展示(4)05年から毎年

 【注】(1)主催団体(2)開催日(3)今年の概要(4)歴史