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ジャングルの中で川を歩く。右端が筆者(7月26日、サラワク州ルマ・パンジン村) |
1953年大阪市生まれ。幼少期から高校卒業まで呉市で過ごす。上智大文学部哲学科を卒業後、78年にブラジルに移住。神学を勉強し、リオデジャネイロ州やパラ州(アマゾン地域)でカトリック教会の司祭などとして働く。91年に帰国。広島なぎさ中・高で社会科の教員を務めている。「人間」「国際」「グローバル・ラーニング」「グローバル・シティズン」の授業などで、ワークショップや講演会を取り入れた参加体験型学習を行っている。
ぼくが勤める広島なぎさ中・高校は毎年、マレーシア・サラワク州(ボルネオ島)の熱帯雨林で暮らす先住民族イバンの村を訪ねる研修旅行をしています。高校2年生を対象に、1998年から始まりました。
今年のツアーが終わって2カ月がたった、10月のある日のミーティングです。テーブルを囲んで座っている11人の参加者に、「このツアーの魅力を『一言』で表現しよう」と呼びかけました。全員が「一言」を紙に書き、テーブルに並べました。
「自分が変わる」「パワーをもらえる」「世界の大きさを知った」「身近なものを好きになる」「野性に返る」「健康になる」…。一人一人が旅の魅力を語っていきました。ぼくは、彼らが一回りも二回りも成長したのを感じ、深い喜びに包まれました。
このツアーは、「ロングハウス」と呼ばれる、長さ約100メートルの木造高床式住宅にホームステイします。
ここでは20世帯くらいの住民が共同生活しています。ロングハウスを一本の長い廊下が貫いています。廊下は敷物やかごを編む作業、会議、儀式、宴会の場になります。子どもが遊んだり、井戸端会議や昼寝の場になったりもします。村の住民が全員一つの家に住んでいます。
高校生はロングハウスでイバンの人たちと5日間過ごします。2人一組で一つの家族にホームステイするのですが、どの家族の部屋にも自由に出入りすることができます。食事時になるといろんな家族から声をかけられ、食事のはしごをする生徒もいます。全世帯が一つの家族のように生活しています。誰の子どもでも分け隔てなく育てます。
私たちの滞在中、ある家族の自家発電用のエンジンオイルに引火する事件が起きました。そのときイバンの人たちは一斉に、自分の部屋の入り口に備え付けてある消火器を持って現場に駆けつけ、一瞬のうちに消火しました。ロングハウスの人たちの団結力を目の当たりにしました。
高校生が大きな衝撃を受ける体験に、鶏や豚の調理があります。自分で鶏を殺し、羽をむしり、解体します。泣き崩れる生徒もいます。最初はこの行為を残酷に感じるのですが、日本でも誰かがやっていることに気づきます。動物の命を奪うことによって、自分が生かされていることを発見します。命を実感し、心から「いただきます」というようになります。
高校生はイバンの人たちが自然の恵みによって生かされていることを実感します。ところが、自分たちが消費する木材やパーム油を生産するために、森が伐採され、川が汚染されていることに気づき、心を痛めます。そして、友達になったイバンの人たちの生活を守るために、自分も何かしたいと思うようになります。
ぼくは大学卒業後ブラジルに移住し、12年間過ごしました。日本とブラジルは文化・社会・経済などの面で大きく異なります。ブラジルでの生活は、ぼくの生き方を変え、成長させてくれました。中学・高校で教師として働くようになって、生徒たちに世界を知ってほしい、生き方を考えてほしいと思いました。そのために人と出会い、本物の体験をしてほしいと願うようになりました。「サラワク・スタディツアー」はこのような思いから生まれました。