北朝鮮で生きる被爆者を取り上げたドキュメンタリー映画。首都平壌で暮らす女性李桂先(リ・ゲソン)さんが主人公だ。1945年8月、当時3歳だった李さんは原爆が投下された広島で、母親と一緒に入市被爆したという。日本と国交がなく、被爆者健康手帳の取得などの援護から放置されてきた被爆者の怒りと悲しみを伝えている。2009年制作。90分。各地で上映している。来春にもDVDを発売予定。今年3月、解説本も出版した。 |
援護を放置された被爆者/映画化で差別なくしたい
1952年、長野県伊那市生まれ。フォトジャーナリスト。87年、韓国・朝鮮人被爆者の姿を追った写真集「原爆棄民(きみん)」の出版と写真展開催を機に会社勤めを辞め、フリーランスに。アジアの戦争被害者や環境破壊を取材し、雑誌やテレビなどで発表している。三重県在住。
広島で被爆し、北朝鮮で暮らす女性に密着したドキュメンタリー映画「ヒロシマ・ピョンヤン 棄(す)てられた被爆者」。監督の伊藤孝司さん(58)は国交がない北朝鮮に住む被爆者が援護から置き去りになっている問題点を突いています。「被爆者はどこにいても被爆者。国同士の関係が悪いからと言って見捨ててはいけない」と強調します。映画に込めた思いを伊藤さんに聞きました。
伊藤さんは2008年から09年にかけ、北朝鮮の首都平壌でロケしました。主人公の女性は入市被爆しましたが、被爆者健康手帳を持っていません。今も皮膚や消化器の病気、貧血に苦しんでいます。伊藤さんは「援護から放置された被爆者の存在を知ってほしい」と願います。
最近は海外から被爆者健康手帳の取得ができるようになりましたが、日本と国交がない北朝鮮に住む被爆者は申請をすることができません。北朝鮮に住んでいる被爆者は07年末時点で約380人と言われ、高齢化も進んでいます。伊藤さんは「一刻も早い人道的な支援が必要」と訴えます。
映画では、北朝鮮の核開発や軍事パレードにも触れました。「私は核に反対。自分の国を守るために核兵器の保有が必要だと言う被爆者の声を聞き、複雑な思いがした」と話します。
被爆直後の原爆ドームの写真や市民が描いた原爆の絵など被爆の実態を知らせるような資料も盛り込みました。「原爆を知らない若い人に見てもらいたい。原爆の非人道性をきちんと伝えたい」と力を込めます。
伊藤さんは、写真家土門拳のヒロシマをテーマにした作品に影響を受け、81年から広島、長崎を訪れるようになりました。韓国・朝鮮人被爆者の存在を知ったのはその2年後です。被爆者は日本人だけだと思っていた伊藤さんは衝撃を受けました。「二重の差別を受けていた。さらに援護も十分ではない。取材して発表することで差別をなくしたい」。ライフワークとして取材するようになりました。
また、伊藤さんはこれまでの取材でアジア太平洋諸国を度々訪れています。その一つ、パプアニューギニアでは森林伐採を取材しました。原生林で自給自足しながら幸せに暮らしている現地住民にも会いました。「世界には日本と異なる文化がたくさんある。文化の違いを認め合うようになってほしい。そうすれば、争いのない世界がつくれる」と未来を担う子どもたちにメッセージを託します。(増田咲子)
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