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8・6を伝える

児玉辰春さん「まっ黒なおべんとう」

book 広島県立第二中に通うしげる君。8月6日も動員学徒として建物疎開の作業をするために、弁当を持って家を出た。しげる君を捜して広島市内を歩き回る母シゲコさん。「しげるに違いない」と駆け寄った白骨の下には、中身はそのままで、色だけがまっ黒になった弁当があった。1989年8月出版。90年にアニメーション映画化。95年に出版された絵本は、全国学校図書館協議会、日本子どもの本研究会の選定図書となり、96年度の「けんぶち絵本の里大賞」で「びばからす賞」に選ばれた。

大勢の子どもたちが感動/本は世の中を変えられる



児玉辰春

こだま・たつはる

1928年、大竹市生まれ。岩国工業学校を経て、52年神奈川大工学部卒。その後、広島市佐伯区や大竹市の中学校で教える。88年退職。原爆をテーマにした「よっちゃんのビー玉」(90年)は日本子どもの本研究会選定図書、「伸ちゃんのさんりんしゃ」(92年)は日本図書館協会選定図書と全国学校図書館協議会「夏休みの本」(93年度)になっている。

原爆資料館(広島市中区)に、まっ黒な中身が入ったままの弁当箱が展示してあります。持ち主は、当時、広島県立第二中(現観音高)の1年だった折免滋君。あの日の朝、弁当を持って建物疎開に出て被爆、死亡しました。「まっ黒なおべんとう」の話は、母親の故折免シゲコさんから聞いた話が基になっています。「本を読んだのか、弁当箱をじーっと見ている子どもがいると聞く。大勢の子どもたちが感動してくれている」と、児玉辰春さんは喜びます。

弁当箱の話を聞いたのは、最後の赴任校だった三和中(広島市佐伯区)にいた1980年代半ば。シゲコさんの近所に住んでいた女子生徒が話を聞いてきました。文化祭で劇として上演したのを機に、シゲコさん宅を訪れるようになりました。「最初のころは『話しとうない』って断られよったのが、次第に『待っとるけえ』言うてもらえるようになったんですよ」と笑顔を見せます。

中学校のすぐ近くに住んでいたシゲコさん。滋君が書いた手紙を見せてもらったり、滋君のお骨の灰を振りかけてアジサイを植えた思い出の畑に連れて行ってもらったり。「ざっくばらんに、みな話してくれてね」。小説として残せたら、との思いが芽生え始めました。

初めは、所属していた文学サークルの会報に「井戸水」という題で投稿。メンバーから「自分の言葉になってない」「描写と説明がごっちゃになっている」など厳しい指摘を受けながらも、出版にこぎ着けました。「おばあちゃん(シゲコさん)が喜んでくれたのが何よりも良かった」と振り返ります。

自費出版も含めて10冊以上の本を出している児玉さん。しかし、学校では数学を教えていました。「数学の教師だから、どう書くかなんてちっとも分からなかった」そうです。工学部だった大学時代に下宿の先輩に文学小説をもらって読み「世の中を変えられる」とのめり込みました。

三和中では、戦時中の自分の生活を小説風につづったB4判のプリントを毎週クラスで配っていました。「子どもたちだけじゃなく、お母さん方が喜んで読んでくれていたんですよ」

「まっ黒なおべんとう」は、アニメーション映画や絵本にもなりました。「よっちゃんのビー玉」「伸ちゃんのさんりんしゃ」と合わせて原爆の悲惨さ、非情さを訴えています。「原爆にこだわるわけではない」としながらも「今の先生は戦争のことを知らん。となると、本しかないよのう」。三和中で配った自伝風小説のプリントは90枚に上ります。これを出版する計画も温めています。(二井理江)


私がイチオシ☆ 中2・末本 雄祐

帰ってこない息子を心配しながら待っていたお母さん。せっかく作ってもらったお弁当を、食べることなく死んでいった息子。真っ黒に焼けこげたお弁当箱を見つけた時、お母さんはどんなに息子に会いたかっただろうかと考えると、いたたまれませんでした。

 「戦争」とか「平和」とかいうと、何か大きすぎて、別の世界の話のように感じる人もいるでしょう。でも、毎日一緒にいた大切な家族や友だちが理由なく殺され、残された年月を、その寂しさに耐えなければいけないことを想像してみてください。それだけで、戦争がどんなに理不尽で邪悪な行為か理解できると思います。だから、この話のように、小さい子でも理解しやすい形で、戦争の悲惨な記憶を伝え続けていくことが大切だと思います。


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