「夕凪の街」「桜の国」の2部構成。「夕凪の街」は広島が舞台。原爆で父と姉、妹を失った主人公皆実(みなみ)が被爆体験を引きずる苦悩を描く。同僚から告白されてよみがえる「生き延びた」ことへの罪悪感。「生きとってくれてありがとうな」と言われた翌日から、原爆症で倒れる。「桜の国」は東京が舞台。皆実の弟旭(あさひ)や被爆2世であるめい七波(ななみ)、おい凪生(なぎお)の恋愛を通して今も残る原爆の影響を訴える。 |
行動を起こすことが大切/お互いの違い認め合おう
1968年、広島市西区生まれ。井口高を経て広島大理学部中退。95年「街角花だより」でデビュー。戦時中の呉を舞台にした「この世界の片隅に」は2009年文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞に選ばれた。
広島に原爆が投下されて10年後の1955年と現代の二つを舞台にした漫画「夕凪の街 桜の国」。原爆の傷あとに若者の恋を絡ませ、重くなりがちなテーマをしなやかなタッチで描いて共感を呼びました。2004年に出版され、文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、手塚治虫文化賞新生賞を受賞。07年には映画化されました。台湾や韓国、米国など7カ国・地域で翻訳、出版されています。「海外でも興味のある題材なんでしょうね」と素直に喜びます。
広島市の出身ですが、小学校の高学年から意識的に「原爆」を遠ざけてきました。「人の事情に土足で踏み入るような、ぶしつけな感じがしたから」と振り返ります。「突き詰めたら、気持ち悪い、というのがありましたね」
02年夏、編集者に「ヒロシマを描いてみたら」と言われました。原爆を毛嫌いしている自分に向き合ってみよう、と図書館で調べ始めました。
原爆で死んだ人に申し訳ないと思う自分がいました。自分には伝える資格がないとも思いました。でも原爆で生き延びた人は死んだ人に、あっさり死んだ人は苦しみながら死んだ人に、それぞれ申し訳ないと思っているのではないか。「ためらうときりがない。どこかで行動に起こすことが重要だと思ったんです」
自分たちはまだ被爆した人に出会える「つなぎの世代」。「だからこそ相手の表情も、話と話の間もしっかりつかみたい。言葉では伝わらないものがあるはずだから」と言い切ります。
広島の子どもたちには「原爆について知らない人を軽蔑しない。自分は知っていると思わない。逆に、知る権利がないとも思わない」よう注文します。「知らないからこそ知ろうと向き合っていく姿勢が必要なのです」と。
平和な世界を実現するため子どもたちに「もめごとの原因をはっきりさせお互いの差異を認め合うこと」を求めています。例えばいじめ。「服がぼろっちいとか、言葉遣いが違うとか、話しにくいとか。原因をはっきりさせたうえで相手を認めないといけないんです」。目の前の小さな平和が世界の平和につながっていくスタンスです。
中学生のころ漫画家になるのを夢みました。デビューは26歳。「夢なんて10年はかなわない。あきらめないことが肝心」。原爆や戦争をテーマにした作品は「あの人が描いてるからいいじゃん、って他の人が描かなくならないように」、今後描く予定はないそうです。(二井理江)
ヒロシマをテーマにした絵本や漫画、歌などの作者や関係者に、作品に込めた思いや10代へのメッセージを、中国新聞の記者が聞きます。
|
募集&プレゼント 広島の原爆に関するお薦め作品を10代の皆さんから募集します。住所、名前、学校名、学年、年齢、電話番号に、推薦する作品名と作者、推薦の理由を記してください。 こうのさんのサイン色紙を1人にプレゼントします。締め切りは22日(必着)。当選は発送をもって代えます。 |