「原爆症」という言葉は、ニュースなどでもよく聞くよね。週1回「原爆症相談外来」を開設している広島共立病院(広島市安佐南区)の青木克明院長(61)を訪ねた。「原爆症という特定の病気はありません」。えっ? 「原子爆弾から出た放射線や熱線などの影響によってかかった、いろんな病気のことですよ」
具体的にはどんな病気のことなんだろう。長年被爆者医療にかかわっている広島大の鎌田七男名誉教授(72)=血液内科学=によると、国が原爆症として認定している病気は悪性腫瘍(しゅよう)(固形がんなど)と白血病、副甲状腺機能亢進(こうしん)症、放射線白内障、心筋梗塞(こうそく)、肝機能障害、甲状腺機能低下症の七つ。ほかに、母親の胎内で被爆して頭が小さくなる「原爆小頭症」、熱線で皮膚が盛り上がったケロイドも原爆症と認められている。
この中で特に目立つのががん。放射線によって起きることが明らかになっているがんは、白血病も含め、甲状腺がん、乳がんなど12種類ある。
原爆症という言葉が最初に記録に残されたのは、原爆投下から約1カ月後の1945年9月12日の中国管区軍医部の衛生速報といわれている。被爆直後に起きる嘔吐や下痢などの急性症状を「原子爆弾症」と表現した。
訴えた9人を原爆症と認めた東京高裁の判決を喜ぶ原告と支援者たち(2009年5月28日) |
被爆から3年たったころには、白血病患者が増えた。50年代半ばからは甲状腺がん、60年代には肺がんや乳がんが多くみられた。鎌田名誉教授は「体中の遺伝子が傷つけられたことで、何十年たった後でも病気になる。この点が核兵器被害の最大の特徴」と力説する。
被爆者に起きるがんの問題として、一つのがんが転移するのではなく、二つ、三つと違うがんが発生する問題があると、鎌田名誉教授と青木院長は指摘する。青木院長は「若い時期に被爆した人ほど、がんになる危険性は高い。被爆者の健康不安は根強い」と話す。
国は、原爆の放射線が原因で病気になり治療が必要な人を原爆症認定患者とし、特別医療手当を支給している。しかし2007年までの統計を見ると、申請した人のうち、認められたのは3割前後しかいない。呼吸などで体内に放射性物質を取り込む内部被曝(ばく)などの影響が考慮されていないのが主な理由。このため、被爆者は03年から集団訴訟を起こした。
原爆訴訟を支援する広島県民会議の渡辺力人事務局長(83)は、原爆投下から13日後に救護活動のために広島市内に入った三次高等女学校(当時)の23人の消息を調べた。05年12月31日時点で13人が亡くなっており、同年代の女性の平均生存率を大きく下回っていた。亡くなった人の多くはがんで亡くなったという。「被爆の問題はまだ終わっていない」。渡辺さんはそんな思いで裁判を支え続けている。
原告は19の裁判で勝ち続けてきた。08年4月からは、病気になる可能性を数値化した「原因確率」を認定基準とすることをやめた。かわりに、爆心地から約3・5キロ以内で被爆したり、原爆投下後100時間以内に爆心地付近に入ったりした被爆者が、がんや肝機能障害など七つの病気にかかっている場合には積極的に認定することにした。昨年8月には、一審判決を確定させたうえで、敗訴した原告にも解決金を払うなどの内容の確認書を交わした。
現在、原爆症認定を申請している被爆者は8000人を超えている。青木院長は「被爆者健康手帳を持つすべての被爆者を認定すべきだ」と主張している。(村島健輔)
=「8・6探検隊」は今回で終わります。