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8.6探検隊

(17)ヒロシマ・ナガサキ なぜ特別視?

Q

東京大空襲でも多くの人が亡くなったのに、ヒロシマ、ナガサキが特別視されるのはなぜですか。




A

放射線 恐ろしさ伝える

原子爆弾で広島は14万人(誤差±1万人)、長崎は7万4000人(いずれも1945年末まで)が亡くなったと推計されている。東京大空襲は10万人以上だ。数では確かに違わない。

ではまず、原爆の特徴をみてみよう。「通常の兵器とは比較にならない威力と、放射線による後遺症です」。全国の空襲や原爆被害などを研究している徳山高専(周南市)の工藤洋三教授は、そう説明してくれた。

45年3月10日の東京大空襲では米軍B29爆撃機279機が、計約1500トンの焼夷弾を2時間半にわたって投下した。原爆は一発でさらに多い犠牲者を出したわけだ。威力は確かに比較にならないね。

死亡率が上昇

グラフ「空からの攻撃による主な被害」

放射線による被害もあらためて調べてみた。放射線影響研究所(放影研、南区)は50年から寿命調査を続けている。これまで被爆者9万3000人、非被爆者2万7000人の計12万人を調べた結果、白血病やがんにかかる率は被爆者の方が高いことが分かっている。

例えば放射線1グレイを浴びた場合(日本人の年間平均は0.002グレイ)、白血病による死亡率が5.62倍、固形がんは1.4倍高いことが分かっている。

次世代に影響

放射線は遺伝子を傷つけるため、被爆二世、三世への影響を心配する声も強い。現在のところ、がんや生活習慣病などについて放影研は「影響はない」と分析しているが「正確に見極めるためには引き続き調査が必要」と、寺本隆信常務理事は語る。

さらに、原爆の特徴について、爆心地近くにあった旧猿楽町の元住民の笠井恒男さん(74)=佐伯区=は「逃げるチャンスを与えない爆弾」と指摘する。多くの命が一瞬で奪われた。自らも両親を失った。「危険を感じることもできなかったはず」という。

一方、広島市立大広島平和研究所(中区)の高橋博子助教(米国史)は「犠牲者が多いか少ないかで被害を比べるのは意味がない」と指摘する。「放射線の影響で一人一人がどんな症状に苦しんだか、実態が伝わらなくなる」からだ。

そうだね。数で見ると結果的に「ヒロシマの被害は特別なことではない」と評価することに、つながる恐れもある。ヒロシマとナガサキの経験は核兵器の破壊力と人類に対する放射線の恐ろしさを明らかにした。その後、世界の戦争で核兵器は使われていないが、僕たちはその違いをよく知った上で、核兵器廃絶を訴え続けていかないといけない。(見田崇志)


 
 

なるほどキーワード

  • 焼夷(しょうい)弾

    激しく燃える油脂などを使った爆弾。東京大空襲では束にして、空中で散らばる「集束(しゅうそく)焼夷弾」が大きな被害をもたらした。

  • 寿命調査

    1950年の国勢調査時に広島・長崎両市に住んでいた人にさかのぼって、放影研が行っている追跡調査。死亡年月や死因、がんになったかどうかなどを調べる。被爆二世や胎内被爆した人は含まれない。始まった58年当初は約10万人が対象だったが、68年と80年にそれぞれ約1万人追加された。

  • グレイ

    人体などに吸収される放射線の量の単位。同じような単位にシーベルトがあるが、こちらはアルファ線や中性子線など放射線の種類に応じて、人体への影響の強弱も計算に反映している。