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8.6探検隊

(6)在外被爆者援護 なぜ国内と違うの

Q

「在外被爆者」はなぜ、国内の被爆者と同じ援護が受けられないのですか。




A

対象外 国の通達も影響

ここ数年、海外に住んでいる被爆者をめぐる裁判の判決が続いて出ているね。何が問われてきたのだろう。調べてみた。

 

被爆者援護法で支払われることになっている手当や医療費などが外国に住んでいるという理由でもらえなかったんです」。市民団体「在ブラジル・在アメリカ被爆者裁判を支援する会」の代表世話人、田村和之・龍谷大法科大学院教授はこう説明する。  

被爆者健康手帳を持つ国内の被爆者は、医療費を国が負担したり、健康管理手当(月額約3万4000円)などを受け取ったりできる。それが手帳を持っていても認められなかったんだ。

■30数カ国4000人

 

そもそも、どんな人を「在外被爆者」というのだろう。

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ブラジルに住む被爆者の現状を訴える森田さん=中央奥(3月11日、広島市中区)
 

広島県被爆者・毒ガス障害者対策室によると、例えば日本が進めた移住政策で戦後、ブラジルなどに引っ越した日本人や、強制連行後、朝鮮半島に帰郷した人がいるそうだ。

 

人数はどうだろう。厚生労働省健康局総務課に聞いてみた。手帳を持つ人は2006年3月で、韓国約2700人、米国約900人を含む30数カ国、約4000人だ。北朝鮮など人数が分からない国や、手帳のない人を合わせると5000人を超える、とみる支援団体もある。

 

その人たちが援護の対象から外れた理由は、1974年に旧厚生省(現在の厚労省)が出した「402号通達」にある。海外の人はこれらの手当などが受けられないことを伝えている。

 

当事者は、どんな気持ちだったのだろう。このほど一時帰郷していた在ブラジル原爆被爆者協会の森田隆会長は「みな同じように苦しんできた被爆者じゃないですか。それが『在外』ということで切り捨てられた」と振り返る。

 

ではどうして、そんな通達が出たのか。厚労省は「日本の法律を海外の人に適用することは、考えられなかったから」と説明する。でも同じ日本で被爆した人が、海外に住んでいるというだけでなぜ除外されるのだろう。理解しにくい。

 

これまでの裁判は、そんな違いを問い直してきたんだ。

■格差解消は途上

 

手当については、2002年の大阪高裁判決で海外の被爆者に払うことが認められた。05年には海外からも申請できるようになった。格差は解消しつつあるようにも見えるけれど、まだ介護手当は認められていない。

 

また医療費は、自分の住む国で治療を受けた場合、その費用を日本が援助する事業が04年10月から始まったけれど、治療内容によって年間13万〜14万2000円の上限がついている。

 

大きな問題は、手帳は今でも日本に来ないと申請できないことだ。高齢の被爆者には厳しい。それでも、申請するための書類審査を待つ人が、広島市の場合、今年3月末で189人いるという。

 

田村教授は「被爆者をめぐる法律は在外被爆者のことを想定せずにつくられた。きちんと援助できるように改正をしないといけない」という。被爆者の平均年齢が73歳を超えた今、その最後のチャンスかもしれない。(見田崇志)

 

なるほどキーワード

  • 被爆者援護法

    正式名称は「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」。それまであった「原爆医療法」(1957年制定)「被爆者特別措置法」(68年制定)を一つにまとめ、95年7月に施行された。被爆者への医療や福祉など「総合的な援護」を国の責任でするとしている。

  • 被爆者健康手帳

    被爆者援護法などにより、次の4つのいずれかにあたると認められた人が取得できる。(1)一定の範囲内で直接被爆(2)原爆投下から2週間以内に入市(3)被爆者の救護などで放射線を浴びる(4)それらの人たちの胎児。