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みんなの平和教室

 瀬谷ルミ子(日本紛争予防センター事務局長)
 

前回の質問に多くの回答を送っていただき、ありがとうございました。クラスやグループで議論をした結果、さまざま々な意見があることを感じた人もいたようですね。私たちの日常にも似た場面がありそうなオレンジをめぐる争いを、皆さんの答えとともに、実際の事例と合わせて考えたいと思います。

 


前回の課題

 2人が一つのオレンジを取り合っています。2人とも半分では足りず、そのオレンジが1個必要だと言って譲りません。どんな解決方法があると思いますか
 
瀬谷ルミ子 せや・るみこ

1977年、群馬県生まれ。中央大卒、英ブラッドフォード大学院修了(紛争解決学)。紛争後に兵士から武器を回収し社会復帰させることや平和構築が専門。NGO職員(ルワンダ)、国連ボランティア(シエラレオネ)、日本大使館書記官(アフガニスタン)、国連職員(コートジボワール)などとして紛争地での支援活動に携わってきた。2007年4月から日本紛争予防センター事務局長。

日本紛争予防センター http://www.jccp.gr.jp/
瀬谷さんのブログ「紛争地のアンテナ」
   http://ameblo.jp/seyarumi


理由や優先度確認
中立的な判断必要
将来見据え種育成


この課題では、まず話し合うことが大切ですね。「どうしてオレンジが必要なのか=理由」(庄原市の山内小6年田畑光さん)や、「どちらがよりオレンジを必要としているか=優先度」(同小6年道下衿奈さん)を確かめる必要があるでしょう。どちらかが他に理由があって相手を困らそうとしている場合は、オレンジではなく不満の源を突き止める必要があります。

また、片方はケーキを作るために皮が必要で、もう片方はジュースを作るために中身が必要だった場合のように、理由を聞いたら争わずに解決できる場合もあります。

例えば、長年スーダン国内は首都のある北部と南部に分かれて争っていました。しかし、お互いが優先するものを話し合った結果、南部でとれる石油の利益の半分を北部に分ける代わりに、北部は南部が独自に政府を持つことを認めて争いが収まっています。

 

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スリランカ北部の国内避難民に、紛争の状況やキャンプに必要な支援などについ話を聞く筆者(右端、昨年9月)

一方、理由や優先度から判断する場合も、自分が争っている当事者か、争いを解決しようとする第三者かによって対応の仕方が違ってくる(広島市佐伯区の砂谷中2年久保田由梨さん)でしょう。現実の世界では、紛争が当事者同士で解決できない場合は、国連や別の国が間に入り、お互いの話を聞いて仲裁します。

でも学校や家でけんかした時に、仲直りをさせようとする人がどちらかをえこひいきしたら、みなさんは不満に思うでしょう。同じように、国連も中立的でなければなりません。しかし国連は、常任理事国のうち、特に五大国と言われる米国、英国、フランス、ロシア、中国が全員同意しなければ重要な決定はできないことになっているため、その5カ国が特定の紛争に対して偏った判断をしているとの指摘もあります。

また、イラクやアフガニスタンへの武力介入のように、一部の国が正しいと判断した解決策が、他の国々から批判された例もあります。そのため当事者を含め、できる限り皆から信頼される解決方法を考えるための議論も行われています。

 

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一方、広島市安佐南区の祇園東中2年、渡辺・川野・岡田・古本グループのほか複数の人が、今はオレンジ半分ずつで我慢するかわりに種を育てて将来たくさん取れるようにすると答えました。

いいアイデアです。実際、このような取り組みはあるんですよ。紛争を経験した国が、平和な社会をつくるためにしている平和構築というプロセスが、これにあたると言えます。「平和の種の育て方」を決めた「和平合意」をつくり、実現に向けてお互いが努力するのです。きちんと守る必要もあるし、相手を信用する必要があります。時間はかかるし、我慢しなければならないこともあります。

オレンジのたとえでいうなら、国連のような第三者がきちんと正しく育てられているかを確認したり、水や肥料を手に入れるために、日本やその他の国が支援をする必要もあるかもしれません。でも、長い時間をかけてオレンジが取れるようになれば、今度は争いが起こる可能性も低くなるし、自分が他の人々を助けることができるかもしれませんね。

一方、簡単には分け合えないものをめぐるジレンマもあります。次回から具体的な平和の種の育て方と共に紹介します。