NPT会議 「核廃絶へ誓約」合意へ
'00/5/20 中国新聞地域ニュース
【ニューヨーク19日江種則貴】国連本部で開催中の核拡散防止条 約(NPT)再検討会議は十八日、最大の懸案だった将来の核軍縮 課題をめぐり核保有国側が大幅に歩み寄り、「核兵器完全廃絶への 誓約」を盛り込んだ最終文書が採択される見通しがほぼ固まった。 これで会議は最大のヤマ場を越え、最終日の十九日、残る中東問題 などで最後の調整を続ける。
合意した核軍縮の将来課題は、米ロなど核保有五カ国と、メキシ コやブラジルなど新アジェンダ連合(NAC)七カ国が協議し、最 終草案として会議に提出した十三項目のうち十二項目。NAC側が 強く求めていた「核兵器廃絶へ疑いのない約束をする」項目は、英 国が抵抗していた「二〇〇五年までの核軍縮の加速化」の一節を削 除することで、保有国側が受け入れた。
また、戦術核のさらなる削減を求める項目はロシアが譲歩。中国 が難色を示していた兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約 の五年以内の交渉終結を求める項目も盛り込まれた。包括的核実験 禁止条約(CTBT)の早期発効とそれまでの核実験凍結、ジュネ ーブ軍縮会議への核軍縮を扱う補助機関設置の必要性などもうたっ ている。
残る未合意の一項目は核保有の透明性の増大(情報公開)で、中 国が適用範囲を狭めるよう主張し、核兵器先制不使用の問題とも絡 ませながら抵抗している。しかし、中国はこの項目への賛否を本国 に照会中とされ、「最終的には何らかの形で受け入れるだろう」と の見方が強まっている。
これら十三項目は、論議のたたき台として核軍縮分科会のピアソ ン議長(ニュージーランド)が示した作業文書が基礎。論議がこう 着状態となったため保有国とNACが直接交渉し、再構成した。フ ランスなどが主張していた「廃絶は究極的目標」の文言は盛り込ま れず、NAC側の主張に近い内容となっている。
再検討会議は最終日の十九日、核軍縮の将来課題を骨格とした最 終文書の取りまとめ作業に入る。ただ、中東問題でイラクが、名指 しで求められた核査察受け入れ義務に反対し、その影響でNPT未 加盟国であるイスラエルやインド、パキスタンに関連した地域問題 の審議が遅れている。過去五年間の核軍縮の進展状況をめぐる議論 も未決着で、最終文書採択の行方に不透明な部分も残っている。
解 説 非核保有国が粘り 保有国側が譲歩 核拡散防止条約(NPT)再検討会議で核保有国が「核兵器完全 廃絶への疑いのない約束」を受け入れた。こう着状態に陥った会議 は決裂さえささやかれ始め、このまま抵抗を続ければ大国批判が渦 巻き、核兵器の独占体制を維持する枠組みでもあるNPT自体が崩 れかねないと予想されるなかで、保有国側が譲歩した形だ。
新アジェンダ連合(NAC)を軸にした非核保有国側の粘り強い 交渉が奏効したと言える。ただ、核保有国、非核保有国がそれぞれ の思惑で妥協を積み重ねた結果、玉虫色の合意になった面も否定で きない。
譲歩のきっかけは十七日深夜、日本の登誠一郎軍縮大使のスピー チだったとされる。「これは、われわれ大使レベルで決着できるテ ーマではない。キャピタル(首都=本国)の指示を仰ぐべきだ」。 保有国とNACが直接交渉の末にまとめた十三項目のうち、この時 点ではまだ「疑いのない約束」を含む三項目で意見対立したままだ った。
一夜明けた十八日、事態は一変した。核軍備の増強を急いでいる とされる中国が、その内幕の公開につながる「透明性の増大」の項 目に反対を続けているほかは、核保有各国はあっけなくNACの要 求をのんだ。
もともと、米国は包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准否決 で世界の失望を買い、米本土ミサイル防衛(NMD)構想の推進で ロシアや中国からも強い反発を受けた。その負い目を自覚している のか、米国は会議で大国の論理を振りかざす振る舞いは自重してい た。
一方、戦術核への依存を強めたいロシアも、兵器用核分裂物質生 産禁止(カットオフ)条約交渉を先送りしたい中国も、自国の主張 に対し他の核保有国からも同調が得られず、孤立無援に陥ってい た。
NACは、そうした保有国同士の思惑の相違という間げきを突 き、「疑いのない約束」という新たな軍縮用語を編み出して迫っ た。
核兵器の警戒態勢解除など漏れた課題も多いが、今回の合意は、 日本政府も主張してきた「究極的廃絶」がもはや口実にならない、 と核保有国が自覚した瞬間だったと言える。(江種則貴)
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