秋葉広島市長が平和宣言骨子を発表

'99/8/4

 広島市の秋葉忠利市長は三日、六日の原爆死没者慰霊式・平和祈 念式で就任後初めて読み上げる平和宣言の骨子を発表した。被爆者 の足跡と功績を高く評価したうえで、その意志を継ぐよう若い世代 に呼び掛ける。また、核兵器を「絶対悪」と指摘し、廃絶を世界に 訴える。

 宣言では、核兵器廃絶のために闘ってきた被爆者の足跡を三つ挙 げ、感謝の意を表す。

 まず、「原爆のもたらした地獄の惨苦や絶望を乗り越えて、人間 であり続けた」と評価。そして、自らの体験を世界に伝えて「核兵 器の三たびの使用を阻止した」と強調する。さらに、復讐や敵対で なく、人類全体の公正と信義に依拠する道を選んだ、として「日本 国憲法に凝縮された新しい世界の考え方を提示した」としている。

 若い世代には、被爆者の意志と勇気で「未来への可能性が残され たこと」を認識し、「核兵器の廃絶に向けた意志を持ってもらいた い」とメッセージを送る。

 核兵器は「人類滅亡を引き起こす絶対悪」と明確に位置付け、廃 絶を「人間として最も重要な責務」と宣言する。

 日本政府に対し、被爆者援護策の充実とともに、各国政府を説得 し世界的な核兵器廃絶の意志を形成するよう求める。最後に原爆死 没者への哀悼の意をささげる。

 耳で聞いて分かりやすくするため、一九四七(昭和二十二)年の 第一回宣言以来初めて「です、ます」調で読み上げる。秋葉市長は 六日夜、原爆ドーム前で英訳文も読む。

 ▽次代への継承打ち出す

 秋葉忠利広島市長が三日、骨子を発表した平和宣言は、間近に迫る 二十一世紀を意識し、昨年までとは内容をかなり変えている。具体 的な政策提言に代わり、原爆の惨苦や絶望を乗り越えた被爆者を再 評価し、次代への継承すべき理念を強く打ち出す。就任一年目の秋 葉市長は、初めての平和宣言に独自色を盛り込もうとしている。 (岩崎 誠)

 ■原点と継承

 「被爆者の地獄の苦しみが世界の人々に具体的な悲劇として伝わ ったから、広島、長崎に続く三発目を防げた」。記者会見に臨んだ 秋葉市長は、被爆者の果たした「足跡」に感謝する意味を、そう説 明した。

 秋葉市長は就任後、過去の平和宣言をすべて読み直した、とい う。「ひたむきに核廃絶を訴えてきた伝統を受け継ぎ、二十一世紀 の準備をしていきたい」。その中で若い世代への語りかけは不可欠 と考えた。初めて「です、ます」調に変えたのも、若者に分かりや すい宣言を目指したからだ。

 もう一つ、日本国憲法の前文や九条というヒロシマの「原点」に こだわった。憲法施行翌年の一九四七年から三年間、故浜井信三市 長が読み上げた宣言でも、憲法九条が規定する戦争放棄を高らかに うたっている。

 ■理念重視

 非核三原則の法制化、核の傘に頼らない安保体制、核兵器使用禁 止条約の締結交渉…。昨年までの宣言で、歴代の広島市長は世界の 折々の核情勢の分析に基づき、核保有国を含め国内外への具体的な 政策提言をしてきた。だが、今年は政策提言を盛り込まない。広島 平和研究所など主催の「東京フォーラム」が七月にまとめた報告書 にも触れない。

 記者会見でそのことを問われた秋葉市長は「個別の提言は、六日 の首相要望など別の方法で国に伝えたい」と説明した。現在の核情 勢に触れないことについては、「新聞やテレビで報じることをあえ て宣言でコピーする必要があるだろうか」と述べた。

 秋葉市長は「意志さえあれば、どの道を選んでも核兵器廃絶はで きる」と強調。「核兵器は絶対悪」という言葉に象徴されるよう に、具体的な道筋を示すよりも、核廃絶への理念を重視する内容に なる。

 ■起草の舞台裏

 今年の宣言は実は、五月にオランダであった国際集会「ハーグ平 和アピール1999」での秋葉市長の英語スピーチが下敷きになっ ている。

 秋葉市長も「現地での発言を聞いた人やいろいろな方の意見を聞 いた結果、ハーグでの内容が宣言にふさわしいということになっ た」と明かす。市幹部によると、七月中旬に市長が原案を示し、担 当職員と議論して文案がまとまった。今年は六日夜、英語でも平和 宣言を読み上げる。それだけに米国滞在が長い秋葉市長は英語の文 案にも自ら手を入れた。

 広島市の平和宣言は、これまでは主に市長が職員や親しいブレー ンらの力を借りてまとめてきた。これに対し、長崎市では七四年か ら市民代表や被爆者による起草委員会を設置。公開の席で毎年の宣 言の内容を議論する。今年から米国人の委員も起用した。

 秋葉市長は「今年は豪雨災害などで時間的な余裕がなく、これま での起草方法を踏襲した」と話す。来年以降の手法については、こ の日は「今年の八・六が済んでから検討する」と語った。


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