中国新聞社

新たな核秩序を築けるか(7)

'98/6/8

▽NGO軸に廃絶の道を

広島修道大教授
菱木 一美氏
ひしき・かずよし 共同通信社ソウル、ニューヨーク特派員などを歴任し、在韓国連軍の撤退や中国の国連加盟問題の取材を担当。96年日本大客員教授、今年4月から現職。国際政治学専攻。61歳。
 東西冷戦後の核拡散は予想されたことだ。米国と旧ソ連の対決のバランスが崩れ、後ろ盾を失った紛争国が核武装する可能性は高まっていた。実際、イラクや朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)など、以前にも核の脅威はあった。

 弱い国連の影響力

 原因は、米国やロシアなど五カ国の核独占を認める不平等な核拡散防止条約(NPT)にある。この体制はもともと危険と矛盾をはらんでいる。冷戦時代の比較安定的な核秩序の中でかろうじて維持できていたにすぎない。

 核保有をちらつかせながら国際政治の取引材料とする可能性も含め、このままでは核拡散はとめどなく続く。NPT体制に代わる、核管理というより核廃絶への秩序づくりを急がねばならない。

 しかし、国連には新しい秩序を生み出す力はない。安全保障理事会は、五大国の権利を守るNPT体制を維持する姿勢を貫いてきた。そもそも国連が主導して国際社会を動かしたことはない。

 一九七〇年代の中東紛争がいい例だ。実際に中東和平を動かしたのは安保理決議ではなく、当事国と強大国、特に米国だった。国連を担当していた記者として、無力感を感じていた。

 冷戦後は確かに国連も変わりつつある。民族紛争や地域紛争に対して積極的に平和に貢献しようとしている。しかし、国家単位の動きは根強く、必ずしも具体的解決をもたらしていない。新しい動きを促進するため、国連総会の発言権を高めるなどの組織改革をさらに進めるべきだ。

 新しい秩序、例えば核廃絶条約をつくるにはどうすればいいか。カギを握るのは非政府組織(NGO)だ。強大国では対応できない世界平和や環境などの課題は、国家のレベルでなく、地球人のレベルで解決しなければならない。

 NGOは科学知識や国際政治にかかわる政策を持ち、国家の利益を超えて具体的な提言ができる。新たな核のルールづくりを実現するには、最も有効で可能な手段といえる。

 日本の後押し期待

 方法としては、NGOが主体となり、国家が後押しする形が望ましい。対人地雷全面禁止条約を実現させた原動力は当初、米国女性ら数人で始めたNGOだった。彼女たちはインターネットを通じてたちまち国を超えたネットワークを広げ、カナダ政府が強力に後押しして力を持った。

 核廃絶に向け、NGOと協力できる国は、唯一の被爆国であり、非核三原則を持つ日本ではないか。核の傘に守られているという弱みはある。だが、政治家の決意次第では可能だし、そうあってほしい。

 同時に、ヒロシマの役割も問われている。被爆の原体験を基に、怒りを秘めながらも、国際政治の状況を見る冷静さも必要だ。核兵器をなくす現実的、具体的な方法を見つけ、提言すべき時期に来ている。

(おわり)
 このシリーズは東京支社・岡畠鉄也、江種則貴、高本孝、岡山支局・宮崎智三、報道部・山根徹三が担当しました。


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