海渡り平和の種まく/若者に期待

「決して無関心ではない」

NAC大使の面接に立ち会うレイスロップ教授夫妻
=左から2、3人目。応募者の減少が気がかりだ(広島市南区)

 日本と北米を結ぶ小さな草の根ボランティアがある。二年ごと に、若者が異国の地を行脚し、ヒロシマを伝えるネバー・アゲイン ・キャンペーン(NAC)である。

 大阪市東淀川区に住む塾講師関本秀一さん(35)は昨春、このボラ ンティアの世話役を引き継いだ。自身、一九八九(平成元)年、十 倍の競争率をくぐり、米国を巡った経験を持つ。

 初めて公募を受け持った今年、いきなり試練に立たされた。「こ んなに集まらないとは」。四月末の締め切り間近になっても、申し 込みは六人…。締め切りを五月十日まで延ばした。

 「ヒロシマは若者を引きつけなくなってきたのだろうか」。不安 と疑念に駆られながら、自転車で地元マスコミを回り、募集記事の 掲載を懇請した。全国の新聞社にも窮状を訴えた。その甲斐あっ て、応募は六十一人に増え、広島市などで面接し今月十日、六人の 選考にこぎ着けた。孤軍奮闘の関本さんを支えたのは「自分の代 で、平和行脚を絶やすわけにはいかない」というOBとしての責任 感だった。

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 NACは八二年、兵庫県宝塚市の元中学教師が単身渡米し、高校 など約百五十カ所で被爆の実態を訴えたのを出発点とする。「若者 の力で、海外にヒロシマを伝えよう」。元教師とホームステイ先の 米マサチューセッツ大のレイスロップ教授夫妻が協力し、三年後に 第一陣を送り出した。

 面接で選ばれた平和大使は、被爆者の証言を聞き、自費で海を渡 る。ホームステイしながら各地の学校を巡り、原爆映画の上映や折 りづる教室で平和の種まきをしてきた。

 歴代のNAC大使は三十七人。一期生の中村里美さん(32)=東京 都町田市=は、外国人向けの雑誌を発行している。帰国後、仕事や 家事に追われ、悩んだ時期もあったが、三年前から編集室に集まる アジアや欧米の留学生たちと、原爆朗読劇の公演を始めた。

 「平和とは、こつこつ編み上げるものだと思います」。中村さん の言葉は、後輩たちヘの激励であり、期待である。

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 「今の若者は、決して平和に無関心ではない」。立命館大(京都 市)の国際平和ミュージアム館長の安斎育郎教授が、一枚の報告書 を見せてくれた。五月に学生百十三人を対象にした価値意識の調査 結果である。恋愛、政治、芸能など三十項目の中で、最も価値ある ものに「核兵器廃絶」を選んでいる。

 同ミュージアムは世界で唯一、大学に設置された戦争と平和をテ ーマにする博物館である。原爆、沖縄、アウシュビッツ…。様々な 資料や写真、ビデオが並ぶ。五年前に開館し、三年前からは「国際 交流セミナー」も開設。広島、長崎を訪れる体験講座に昨年から、 上海や南京を巡る中国コースも加えた。

 一昨年の阪神大震災で、全国から多くの学生ボランティアが集ま った。「核兵器廃絶の目標はあっても、等身大の課題になっていな いだけ。問題を解決する糸口を教えれば、若者は大きな力を発揮す る」とみる安斎教授。「核」の次に「恋愛」を挙げる学生たちにギ ャップを感じるのでなく、その心のしなやかさに可能性を見い出 す。

 「被爆地の熱い心に触れ、本場のお好み焼きも楽しみたい」。北 海道出身の政策科学部四回生奥万喜子さん(22)はこの八月、セミナ ーに加わり、初めて広島を訪れる。


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