昨年10月、核軍縮をテーマに開かれた民間の国際会議で、 「大量破壊兵器から自由な世界を築こう」と訴えるパキス タン駐在エジプト大使のモハメッド・ギャラールさん (イスラマバード市) |
「経済活動には熱心。でも、国際社会の中で日本が果たし得る独 自の役割を担っていない」
インド、パキスタンで取材中、日本への批判と期待の交じったこ んな声を何度も耳にした。イスラム国家に属しながら、客観的な立 場で印パ両国を見つめるパキスタン駐在のエジプト大使モハメッド ・ギャラールさん(53)も、同じ指摘をする。
彼によれば、経済的な役割を果たすだけでは、かえってエコノミ ック・アニマルとしての印象だけが膨らんで、日本へのマイナスイ メージだけが残ってしまう、という。
「日本は援助大国としてインド、パキスタン双方と友好関係を築 いている。同じアジアの一員であり、被爆国でもある。その立場を 生かせば、カシミール紛争の平和的解決や両国の軍縮に大きな役割 を果たせるはず」
イスラマバードでの軍縮会議で知り合った翌日、エジプト大使館 であらためてインタビューしたギャラールさんは、こう力説した。
「被爆体験に根差した『平和国家』としてのイメージ。それを最 大限に生かした政策を推進することだね。そうすれば、国際社会の 中での日本の評価はもっと高まるよ。特に貧困や紛争を抱えた発展 途上の国々からね…」
ギャラールさんは、その役割を南アジアだけでなく、対立するア ラブ諸国とイスラエルの中東地域でも発揮してほしい、と期待す る。
「エジプトは中東地域を核、化学、生物のすべての大量破壊兵器 から自由な地にしようと訴えている。潜在的核保有国のイスラエル を仲間に加えるには、パレスチナやアラブ諸国との関係改善を図る しかない。日本はどの国に対してもいい関係を保っており、調停役 としてふさわしい」
取材中、日本のODAの在り方についても、多くの注文が出た。 パキスタンのラホール市で週刊誌『フライデー・タイムズ』を発行 する編集長のナジャム・セーティさん(50)。誌上で政治家や官僚ら の汚職、腐敗と闘う彼は「これだけは日本人に要望しておきたい」 と、力を込めた。
「有償、無償を問わず、ODA資金が腐敗した政治家のポケット に入らないように徹底的に監視してほしい」。一ルピー(約三円)に至 るまでどう使用されたかチェックすべきだ、という。
「私たちはこれまで、ODA資金が手抜き工事などで不正に使わ れたケースを何度も見てきた。援助金が軍事目的などでなく、民衆 の福祉に必ず役立つよう最後まで目配りするのも援助国の責任だと 思う」と、セーティさん。
教育、医療、衛生、環境、交通、通信…。パキスタンでもインド でもこうした分野への援助に力を入れてほしいとの声が強かった。
日本の外務省は「ODAはすべて現地の人々の民生向上に役立つ プロジェクトに使われている」と強調する。が、印パ両国民が抱く 使途への不信感。そこには援助国と受け入れ側の市民の感覚に大き なずれがある。
日本からインドへの昨年のODA総額は六百三十億三千五百万 円。パキスタンは三百七億九百万円。欧米の援助国を抑え、ここ十 年近く一位を保っている。
ODA資金が現地の人たちの暮らしに役立つよう、日本政府にき め細かい施策を求めるのは私たち納税者の義務だろう。使途に疑問 を抱く人々の不信感を取り除くアカウンタビリティ(説明責任)も 必要である。
国際社会での調停者としての役割。民生向上に役立つODAへの 注文。印パの人々の日本人への二つの要望には「平和国家としてイ ニシアチブを取ってほしい」との強い願いがこもる。
その願いは、米国の臨界前核実験を黙認したり、日米安保体制を 見直し、米国との軍事協力強化の道を歩むことでないことだけは明 らかだ。