核保有を公約に掲げるインド人民党が、544議席中、 162議席を占めるインド下院議会。BJPは野党第一 党で最大会派でもある (ニューデリー市) |
米国が二日(日本時間三日)、ネバダ州の核実験場で実施した臨 界前核実験。印パ取材から帰国後も時折連絡を取り合う反核派のナ イヤーさんに早速コンタクトを取った。落胆の声に、「広島や長崎 では被爆者や市民が抗議行動を起こしている。あきらめないで」 と、励ましの言葉を掛けた。
インドの核問題専門家で、反核運動の創始者として知られるディ レンドラ・シャルマさん(64)=ニューデリー在住=にも電話を入れ た。怒りの声が伝わってくる。
「自国政府を包括的核実験禁止条約(CTBT)にどう加盟させ ようかという時に、米国は身勝手な実験をやって核開発推進派を勢 いづかせてしまう。腹が煮えくり返るようだよ…」
米国の臨界前核実験の実施は、結果としてインド、パキスタンの 反核派をより困難な立場に追い込み、「核オプション」にこだわる 両政府の立場を一層強固なものにしてしまった。
「核兵器を保有して、同じ土俵に立たないと核保有五カ国は軍縮 に応じない」
ヒンズー至上主義政党で最大野党のインド人民党(BJP)リー ダー、アタル・ビハリ・バジパイ氏(70)は、インタビューの中でこ う言った。BJPほど強硬な立場でなくても、政府の立場を支持す る世論は圧倒的である。
核保有国の特権を維持する一方で、不平等な条約を押しつけるこ とへの猛烈な反発。「植民地時代の同じ屈辱は味わいたくない」。 インド各地で取材しながら、年配世代から何度同じような言葉を聞 いただろうか…。
三百年余続いた英国植民地統治。その間に味わった屈辱感は、半 世紀たった今も人々の心の奥底に深く横たわっている。大学生ら若 い世代も、ファッションや音楽などは西洋文化を取り入れながら、 理不尽な要求には親や祖父母の世代と同じように強い反発を示す。
パキスタン人も同じ英国の植民統治下にあった。その意味では、 西洋への反発心はインド人と変わらない。ただ、核開発にこだわる のは、隣国インドへの核抑止のためで、核保有五カ国への対抗心か らではない。
印パ両国民の核抑止信仰を克服し、CTBTや核拡散防止条約 (NPT)の仲間入りを促すには、どうすればいいのか。
世界の人々と連帯しながら、米国が予定している次の臨界前核実 験を中止に追い込む。核軍縮を進めるよう核保有五カ国へ一層働き 掛けを強める。これらの取り組みを前提とした上で、アプローチを 考えてみよう。
インド人にNPTやCTBTへの参加を呼び掛ける時、何よりも 彼らが味わってきた植民地時代の苦い体験に思いをはせることが大 切だ。パキスタン人には、この上にさらにインドとの三度の戦争で 敗北した屈折した思い、カシミール問題や通常兵器における軍事力 の差などに意を払う必要がある。
印パ両国民の思いをまず受け止める。そうすることで、被爆体験 に根差した世界平和と核廃絶を求める「ヒロシマ・ナガサキの願 い」も生きてくる。
核抑止論を超えるヒントは、シリーズ第六部「軍縮への視点」で 取り上げた。例えば、インドの元外交官エリック・ゴンサルベスさ ん(69)は、インド洋を含む南アジアの非核地帯の設置を呼び掛け る。自国のCTBT加盟も。そうすれば、パキスタンも加わり、両 国の緊張緩和に大きな影響を及ぼす。
核開発など互いに軍事力を強化し、不信と緊張を高めるのか。そ れとも軍縮を促し、信頼醸成の土壌をつくってゆくのか。どちらの 道を選択することが両国民や近隣諸国にとって得策か。被爆国に生 きる私たち自身が、NPTやCTBTに加わる意義とメリットを語 り得る言葉を持たねばならない。
そして何よりも重要なのは、孤立しがちな両国の反核派にエール を送り続け、手を携えて歩むことだろう。