「南アジア大会全体の平和と発展のためにも、印パ両国は 信頼関係を築かなければならない」と話すラナビアー・サ マダーさん (カルカッタ市) |
「ニューデリーでの第一回大会で採択した『勧告』に、フォーラムの基本精神がすべて出ている」
ラホールの自宅で会ったパキスタンの元大蔵大臣ムバシ・ハッサンさん(75)は、「平和と民主主義を求めるパキスタン・インド人民フォーラム」の第一回大会(一九九五年二月)に触れ、こう強調した。
印パ両政府と国民に向けた勧告には、次のような内容が含まれる。
「両国間の紛争解決に戦争手段は使わない。通常兵器を相互に削減し、核開発を踏みとどまるべきである」
「カシミール問題は、単に両国の領土問題ではない。支配ラインの両側に住むジャムー・カシミール地方住民の生活と願いにかかわる問題である。解決には住民の意思を尊重し、平和的、民主主義的プロセスを必要とする」
「約二百人の両国からの参加者は、大会後それぞれの地域で報告会を開くなど勧告普及のための地道な活動を続けてきた」とハッサンさん。そして、その年の十一月、今度はラホールで第二回大会を開いた。
「この時もパキスタン政府からインドの代表にビザが下りるか正直心配だった」と、ハッサンは打ち明ける。しかし、インドから七十九人が自費参加。パキスタン側も百二人が加わった。
二日間の大会決議では、印パの核とミサイル開発プログラムが「両国民に破滅的脅威を与えている」として、あらためて開発中止を訴えた。さらに双方が軍事費を含め全体の軍事力を二五%削減するよう求めた。
「意図的であれ、偶発的であれ、核戦争が起きる可能性がなくなるよう、ただちに両政府が対話を始めよう、とのアピールも出した」
ハッサンさんによれば、印パ両国には一般市民ばかりでなく、政治家や軍人らでさえ核戦争の実態を知らず「使える兵器だと思っている者が多い」と言う。
「実は昨日会ったパキスタン人も『デリーなどインドに四個原爆を落とせばいい』と平気で言う。それが現実なんだよ…」
多忙なハッサンさんは、明日(十一月十一日)からインドを訪れるという。十二月二十八日からカルカッタで四日間開く第三回大会の打ち合わせのためである。
彼より遅れること九日。インドへ戻った私は、十二月初旬、カルカッタを訪れ、地元で受け入れ準備に当たるアジア研究所上級研究員のラナビアー・サマダーさん(47)に会った。
「今回は三百人以上の参加が決まっている。地元紙をはじめ州政府、ビジネス界なども支持してくれている。きっとこれまで以上に盛り上がるだろう」と、笑みを浮かべて言った。
クリスマスの夜、帰国しなければならなかった私は、残念ながらその大会を取材できなかった。年が明け、サマダーさんに電話を入れた。
「大成功だよ。取材してもらいたかったね…」。彼の声は弾んでいた。今回はパキスタンから百六十七人が参加。とりわけカルカッタ市民との交流が印象的だった、という。
「最終日にカルカッタの目抜き通りを平和行進した。一般市民も四、五百人加わった。印パの市民が手を取り合って三キロ歩いたんだよ」
第三回大会では、シアチン氷河の非軍事化や非核世界の実現などを目指し、フォーラム参加者が印パ両政府に一層働き掛けを強めることを誓った。
今月半ば、ハッサンさんにも電話を入れた。両国市民が人民フォーラムをつくって三年足らず。「ここまで定着するとは思ってもいなかった」と打ち明ける彼は、日本への期待をも込めて言った。
「八月の独立五十年を前に、両市民の交流は政府や役人にも少しずつ影響を与えている。被爆の実相を伝えるなど、広島や日本からも力を貸してほしい」
人民フォーラムは、今年十二月初旬、今度は北西辺境州のペシャワールで第四回大会を開く。
(田城 明編集委員)
第7部はこれで終わり、第8部は7月上旬から掲載します。